見学会 ワークショップ のご案内

根の上の石場建て4 土木工事2「自然素材の駐車場」

はじめに

今回は「自然素材の駐車場」です。
通常住宅の駐車場は、コンクリートかアスファルトまたは砕石敷きが一般的だと思います。

何もしない土のままだと、毎日タイヤで踏み続けるうちに地面は硬くなり、やがて水たまりができるようになり、車や靴が泥で汚れてしまいます。砕石も上手にやらないと、土にめり込んで地面を固めて、水たまりができるようになってしまいます。

雨が降った翌日になっても水たまりが残っているという事は、全く水が地面に滲み込まなくなった状態です。本来地面は草木に覆われて雨は浸みこんでいたのですが、コンクリートで覆った場所や締め固められた場所が増えると、地面に滲み込む雨は減り側溝に排水される雨が増え、川が増水し災害に繋がると思います。

また、地面に滲み込んだ水は、草木の根などに吸収・蒸散されながら、ゆっくり浸透と湧きだしを繰り返し川へと繋がります。水をゆっくり動かし貯えていた土が減っていくと雨は川と直結し、雨が降れば増水、雨が降らなければ水不足という状況に繋がると思います。

一軒の家が施工した所で本当に小さな小さな小さな事ではありますが、災害などから暮らしを守るための一つの方法として、水が浸透する駐車場(路盤施工)のご紹介です。

 

 

掘り方

 

では、実際の作業です。まずは前回の続きで、掘ります。

 

 

駐車場の天端予定の高さから、約10cm以上深めに掘ります。
この10cmは水を浸透しやすくする為の下地のスペースになります。

 

 

この土地の地形は緩やかに南下がりの土地なので、南の側溝の際は特に深めに掘りました。
掘方の底も、地形に従う。

また側溝の際は、側溝やコンクリート擁壁の工事時に、浸透しにくい土の環境になっている事が多いので、下地を何層にも重ねられるよう深めにしました。

 

2台分の駐車スペースを掘り終わりました。
ここからの作業は、大きく以下4つです。

1.道路からのスロープ処理
2.駐車スペース周囲の段差の処理
3.軟弱な層の補強
4.路盤整備

 

1.道路からのスロープ処理

 

道路と駐車スペースに段差がない場合は良いのですが、今回は30cmほど上がるので松丸太と栗石でスロープを作ります。
丸太は高さの基準でもあり、栗石を固定する壁としても利用します。

 

 

このスロープで必要な事は、車を支える事。乗り入れしても沈まない構造です。

平らな面を作る事とくらべると、スロープはとても大変です。平らな面は上からの力だけで良いのですが、スロープは横からも力がかかります。しかも、人よりも重い自動車。その重さを毎日支えながら、その下の地面を締め付けない路盤のような石組みを作ります。

 

 


次に、雨水を排水しない事。

この場でそれをするためには、降った雨をその場で浸透させることを考えます。
平らな所はやりやすいですが、斜めは水が流れやすい。

ちょっとわかりづらいですが、丸太や石の下に雨を浸透しやすくするために、小さな穴や溝を作り隙間には炭燻炭や藁や有機物を差し込んだり詰めたりしています。そうする事で、雨の勢いを抑えるともに、砂や土などが浸透する構造を目詰まりさせないような工夫をしています。

 

 

下地が完成しました。
表面は石やら丸太でガタガタしているので、ここからは砕石を隙間に詰めながら、丁寧にならしていきます。

 

2.駐車スペース周囲の段差の処理

 

掘り方をすれば、当然掘った境には段差が生まれます。
段差には横からの土圧を支える構造物が必要になります。


自然の素材で段差を解消しようと思うと、石を組むか、丸太を組むか、草などその他のもので作るかです。家と同じで、自然素材で作るとなると、石・木・土・草しか使えるものがないのです。

今回は人通りも多く、段差の強度も必要でしたので、石積にしました。

 

 

まずは駐車スーペスの段差ができた周囲に、段切りをして溝を掘ります。

石積の根石代わりとして、上の段から水やら泥が流れ落ちてきたときの緩衝として、溝にはぐるっと石を小端立てして藁を差し込みます。

そしたら、あとはひたすら石を積むだけです。

 

 

 

正面の奥は、建築工事の搬入動線になるので、建築完成後に仕上げの石積となります。

 

 

駐車場の脇には、かわいい石畳のアプローチと植栽ゾーンも作りました。

 

 

夏には、石の隙間から、有機物に混ざっていたドングリが芽吹いていました。
植物にとって、心地よい土中の環境が育っている証拠です。

 

3.軟弱な層の補強

 

駐車スペースを掘っていると、一部未分解の有機物かなにかが埋められていたのか、フカフカする層が出てきました。
先ほど石組で路盤を作るといいましたが、石組が沈んでいかない程度の締め固まった支持層は必要です。

実は、現場で掘ったら予期せぬものが出てくることはよくあります。今までも、ゴミやタイヤやコンクリートガラが出てきたり、畑だったところからは農薬の袋ごと出てきた事もありました。

 

 

今回はひと手間かかりますが、支持できる層がでてくるまで、フカフカする層を取り除きます。
フカフカの層の掘削は、地形や支持層を確認する為にも、手作業で進みます。

 

 

結局、フカフカの層を取り除くと、ここまで掘る事になりました。
土地に合わせて計画を変更ということで、今回は木工沈床のように丸太を組みその上に石組としました。

 

 

このように、丸太・栗石と炭燻炭・有機物で路盤を作る事で、地面に水が浸透する構造を作りながら、車や人間を支えることも出来ます。さらに、丸太や石の隙間には昆虫や草木や菌糸が暮らす環境が生まれ、この敷地の生態が豊かになることにも繋がります。

 

4.路盤整備

 

最後は、丸太や栗石で作った下地の上を仕上げます。

下地の栗石は大きさ300㎜ぐらいから始まり、仕上げに近づくにつれ石を小さいサイズにしていきます。
最後の砕石は、30㎜ぐらいになります。この石の種類やサイズは、その地域にある物でその土地に合わせて使います。つまり、仕様(マニュアル)がないので、そこにある素材と職人さんの感性で出来上がっていくのです。

 

 

2024年4月、掘り方が終わった状態。

 

 

2024年6月、路盤の仕上げが終わり、植栽も入った状態。

 

 

2024年8月、植物が育ってきた夏。

 

 

2024年11月、施工後半年過ぎた状態。
順調に植物が育ってきました。これから建前が始まり、引き渡しは2025年の夏ごろです。

引渡し前の春にはさらに植栽を増やして、引っ越しの時には造園工事も終わった状態で、街中にポツンと森が出来たような庭が完成している予定です。

 

さいごに

「自然とともに暮らす家」や「庭と繋がる家」を作る為には、建築と土木を同時進行で計画する必要があります。計画とは、設計・予算・工期です。

例えば小さなことでいうと、今回の駐車スペースだと、深めに掘ればスロープは小さくなり楽なのですが、段差が大きくなり石積みが高くなってしまうし、残土も増えてしまいます。

造園工事でいうと、建築工事が終わった後に予算をかけて大きな木を持って来て、時間をかけずに人の手で庭を作るか、建築工事が始まる前に植物が育ちやすい土中の環境を整えて、実生や苗木を植えて自然にまかせて時間をかけて庭を育てるか。

そもそも、家作りにかける全体の予算の中で、その土地に合わせて暮らしやすい家を作るのに、どのような予算配分でどのようなスケジュールで、誰と家を作り誰と庭を作るのが良いのか。

この提案が上手に出来れば「自然とともに暮らす家」や「庭と繋がる家」に近づけるのでは思っています。

その為に必要な一つは、最初に建主に提案する立場にいる人が、全ての工程を理解し経験する事かなと思って、私も勉強中です。

  

次回は、いよいよ石場建てに欠かせない樋のない屋根と雨落ちです。