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根の上の石場建て3 土木工事1「伝統工法の土木」

はじめに

今回は、建築だけから家作りを考えている方に向けて、土木の役割を少しでもお伝えできればという思いで、「根の上の石場建て」の土木工事について私の考えている事を、4回に分けてまとめてみます。

例えば、「自然とともに暮らす家」とか「庭と繋がる家」など、よく聞きます。私もそんな家に暮らしたいと思っていますし、そんな建築を作りたいと思っています。

しかし言葉にするのは簡単なのですが、実際にやっている事は目に見える地表の薄っぺらい部分をお化粧しているだけで、自然が美しく育っていなかったり、生き物が来なかったり、ずっとメンテナンスし続けなきゃいけなかったり、そもそも人間の見た目だけで作っているので数年で陳腐化してしまったり・・・、などと感じるようになりました。

「自然とともに暮らす家」や「庭と繋がる家」とは、どういう状態なんだろう?、どうすればできるのだろう?、そんな疑問のヒントになればという思いで、お話ししていきたいと思います。

 

今回の土木工事は、長野県木曽町の「は組」畠山さんにお願いしました。
https://www.instagram.com/ha_gu_mi/
畠山さんとは2023年に古民家改修の現場以来2回目です。

畠山さんは、地球守や有機土木協会という団体で活動をされています。
ご興味があればWebサイトをご覧ください。

地球守
有機土木協会

 

 

土木の現代工法と伝統工法

まず始めに、ややこしい話から。

私は2015年から石場建ての建築を建てるようになり、2019年までは「べた基礎」や「布基礎」を地中に埋めて、その上に礎石を置いて建てる「現代工法の土木工事」をしていました。しかし、2020年以降は土中環境を知ったことで「伝統工法の土木工事」をする事となり、基礎工事の進め方が大きく変わりました。

簡単に言うと、「鉄筋とコンクリートの既製品で作るか、自然の素材の石を組んで作るか」
建築に例えると、「プレカットに板を貼るか、手刻みに土を塗るか」

以前は地盤を補強して、鉄筋コンクリートで基礎を作って基礎に石を貼り付けていました。つまり、既製品だけで仕様(マニュアル)通りに作るので、乱暴に言うとは基礎屋さんは誰でも良かったのです。また、基礎の安全性が足りない場合は、鉄筋かコンクリートを増やすだけなので、単純で楽でした。

一方、自然素材の石を組むためには、自然の素材を調達生産する事と、職人の手仕事が必要となります。つまり、その土地の環境を読み、素材の特性を心得た職人さんに、施工していただくことが必要になりました。

その土地に従い、その土地の素材を使う事になると、伝統的な建築(手刻みや土壁)と同じように地域性が生まれます。地域性が生まれると仕様(マニュアル)は通用しません。つまり設計や仕事は、土地や素材に合わせ進めることになります。

 

 

切土(駐車スペース)

では実際の作業です。
まずは、切土。今回の土地は周囲を、コンクリートの擁壁で囲われていたので、道路沿いに駐車スペースを作ります。
作業する為にも、重機や資材を置くスペースが必要です。

この時も、出来るだけ土地に合わせて、地面に浸透した水が動きやすい位置を考えながら、掘っていきます。

 

 

滞水しやすい側溝の際は、少し深めに掘って水が動きやすくしています。

 

 

車2台分とアプローチを削るの結構な残土が出ます。
今回は残土も捨てるのではなく、敷地内に高低差を付けて多様な環境が生まれるように、残土の行き場もあらかじめ敷地内に計画しておきます。

 

 

こちらは、擁壁を壊したコンクリートや鉄筋のガラです。
これらもゴミとして持ち出していては、この土地のゴミが減ってほかの土地にゴミが増えるだけなので、敷地内の造作に利用していきます。

 

盛土(植栽ゾーン)

 

 

こちらの写真は施工1年前の写真です。
駐車場の残土は、この敷地の角に使います。ここに目隠しの植栽ゾーンを作る計画です。

 

 

こちらもただ盛るだけではなく、手間はかかりますが、水が浸透しやすく草木が育ちやすくなるような造作を行います。
まずは段切りを行い、際にはたて穴を掘っていきます。

 

 

丸太や栗石や先ほどのコンクリートがら、そして有機物や炭燻炭を使用します。

 

 

乾燥気味の部分は、特に丁寧に小さな穴に藁や葉っぱを差し込みました。

 

 

一見平らな敷地に見えても、自然界に平は存在せず、敷地内には高いと低い所が必ずあります。そこは地形を読んで低い場所には、深めの大穴を作り杭を打ち込んでおき、土中の水と空気が動く工夫をしてみます。

 

 

植栽ゾーンとなる重要な角地なので、丸太を使いながら、駐車場の残土を敷葉で丁寧に盛って行きます。
真ん中の木は、敷地内に残っていた唯一の木です。

将来的に庭が育ってこれば伐採するかもしれませんが、まずはこの木が起点となって木陰を作り植生が育っていくよう残します。

 

 

こんな感じの盛土になりました。
施工から10日後です。ちょうど4月で草木が芽吹く季節だったので、緑が生まれました。
この木の名前は、なんだっけな。

 

 

半年後の11月はこんな感じです。
建前の頃には、ちょっと緑が大きくなりましたよ。

 

 

木陰には、コナラがすくすくと育っています。

 

さいごに

現代工法は既製品を仕様書通りに施工する事であり、伝統工法は素材をその土地に合わせて施工するといいました。

では、伝統工法は仕様がないのに図面が書けるのかというと、見積もりをするために図面は描きますけど、均一ではない素材を使う以上細かいところは図面で表現する事はできず、現場合わせになります。

現代工法だと、均一な製品(品番)と仕様書が揃っているので、乱暴にいえば品番を記載した図面があれば、誰が施工しても同じものになります。しかし、伝統工法は同じ図面でも、不揃いな自然素材と施工する職人の感性が違うので、同じものにはなりません。これは、土木だけでなく建築でも同じことが言えます。

例えば建築の材木。岐阜の東濃地方は柱梁は桧が中心ですが、愛知の三河地方になると柱は桧で梁は杉が多くなります。福岡まで行くと、柱も梁も杉でした。伝統工法はその地域で調達できる素材で作るので、素材が変わると素材の良さを生かした見せ方や木組みの組み方が変わり、設計も変わります。

また田舎の集落に残っている戦前の日本の民家は、注意深く見るとあの家とこの家は同じ棟梁だろうななどわかる時がありますが、同じ地域でも職人の癖や技術や好みによって設計も変わってきます。

「自然とともに暮らす家」や「庭と繋がる家」に近づくためには、まずはその土地や素材と職人に従う事が大切だと思っています。

次回は、コンクリートやアスファルトを使わない駐車場についてです。