ワラビーランドの和紙蔵づくりワークショップ、無事に上棟いたしました。連日の雪で延期も考えましたが、なんと建前の日だけ久しぶりの快晴に恵まれ、ワラビーランドの皆さんと職人さんと参加者の皆さんのおかげで、心温まる建前となりました。
さて、次回以降の予定です。
満席(キャンセル待ち)3月8日(土)・9日(日)
竹小舞・土壁WS
4月12日(土)・13日(日)
三和土WS
まだワークショップの参加者は募集中です。
興味のある方は、ワラビーランドのWebサイトからお申し込みください!
今回も「蕨生の蔵」ワークショップのBlogは、インターンのT君にレポートしていただきます。
こんにちは。インターンのTです。
ワラビーランドの和紙蔵つくりワークショップの6回目のレポートです。
過去のレポートを読んでいただけるとより詳しくWSの様子が分かると思うので、まだ読んでいない方はぜひ読んでみてください。
ワークショップ開始
2月9日、蕨生の蔵の建前が行われました。
これまでのWSで皆さんと作ってきた基礎の上に建物が建つ日です。

8時に現場に着くとこの雪。

地面は凍り、危険な状態です。 山で太陽の光が遮られていて、雪や氷が解ける気配はまだありません。 しかし、建前は行われます。ワラビーランドの方がWS参加者や資材運搬のために雪かきをしてくださいました。


こちらが、現場。雪の中から基礎が顔を出し、足場が組まれています。
ワラビーランドの皆さんと大工の井関さんが、前日に雪かきをして、足場を組んでいただきました。
1.建前開始(土台~柱)

大きなトラックやクレーンが入れないので人力で資材を運びます。

まずは土台が運ばれ、所定の位置に置かれました。

大工さんが打ち合わせしている様子。

刻みの時に見た、井関さんの軸組み模型。
WS参加者や大工さんとコミュニケーションをとるのに図面や模型は非常に大切です。

太陽が昇り、陽がさしてきた頃、土台が組まれて、その上に柱が建ちました。

「い五」と番付があります。これは前回のWSで見た図板に対応しており、どこの部材かが分かります。写真は「”い”の”五”通り」と言われる場所なので、「い五」と書かれた部材が集中しています。 これは「あり落とし」で土台を組み、こみ栓で柱を止めています。


これが土台の継手。上のように2つの材を継ぐことで、長さを確保します。 これは「追かけ大栓継ぎ」と呼ばれるものです。


20分ほどで入口部分以外の柱が全て建ちました。

建物の入口部分。柱と差し鴨居を込み栓で組んでいる様子。
時刻は9:00頃。参加者が集まってきました。
2.挨拶+建前続き(鴨居~梁桁)

この日も十数名の方が参加されました。
初めての参加の方もおられましたが、これまでに参加された方が多く参加されていました。
足場の悪い中、参加して頂きありがとうございます。
軸組み模型を持って、説明させれている方が企画・設計の水野さん。
隣で図板を持っているのが棟梁の井関屋の井関さんです。
雪に映える全身真っ赤のかっこいい作業着の方が土木・左官を担当されている森左官の森さんです。
他にも3名の大工さんと瓦屋の今井さんが応援で来ていただきました。

自己紹介の後、入口部分の柱と差し鴨居が組まれました。

上では立ち上がる柱を支える大工さんが待ち構えています。

持ち上がり、

ほぞ穴を捕らえ、

上で待ち構えていた大工さんが叩きます。

ぴったり収まりました。
木と木が当たって、叩いても動かなくなったら大工さんは「どん」と言ってました。
叩いている大工さんはどこまで叩いていいかわからないので、他の大工さんが「あと○分(ブ)・・・はい、どん!」みたいな感じで声を出しながら、建前が進められました。

西側の梁桁から順に組み上がっていきました。




柱の上で梁桁が交わる部分。
柱に「ほぞ」が二段重ね(重ねほぞ)になっていて、その上に「ほぞ穴」のあいた桁、さらにその上に「ほぞ穴」のあいた梁が重なります。
桁は「込栓」で、梁は「割りくさび」でとめます。

柱の重ねほぞ。

梁桁が乗った様子。割り楔を打つ溝が切られています。

上から見るとこんな感じ。

上の写真の中央に刺さっている木が割り楔です。



長くて重い材を大工さんたちは人力で持ち上げていました。

「そーらっ!」の掛け声で一斉に叩いていました。
木と木がぶつかる音は、山で反射し、雪で吸収されて、とても気持ちいい音になってました。
やはり、ここは住宅街と違い音環境が良いです。

柱のほぞと梁のほぞ穴を捕らえている様子。




3.建物移動+建て起こし
梁桁材が組み終わったら、小屋組みを組み始める前に、建物を予定の位置に移動します。
移動方法は、人力です。

押して、引っ張って、叩いて。

これで建物が動くというのが驚きです。

石場建ては本当に石の上に建物が乗ってるだけということを実感しました。

水糸を使って建物が真っ直ぐかどうかを確認している様子。

建物が直角か確かめている様子。
大工さんは直角とは言わず、「矩(カネ)」と言っていました。
まだ、貫も無く、込み栓も全て打ってないので建物は柔軟に動き、直角や垂直を調整できます。
4.建前続き(小屋組み)


その後、小屋束が組まれていきました。

込み栓で組むようになっています。


桁と柱の接合部分。
左右2つの「込栓」は桁と桁を繋ぐ継手の「追いかけ大栓継ぎ」。真ん中の「込栓」は柱と桁と繋いでいます。
「込栓」が集中していて、見栄えがいいです。

柱と梁は「込栓」で、その上に桁が乗り、桁と小屋束は「込栓」で組まれています。



日本建築の構造美は屋根の下に広がる闇の中に見出されると思いますが、建前でしか見られない青空の下の構造も素敵です。
5.10時の休憩+建前続き(小屋~垂木)

通りから覗く。

煙と蒸気でモクモクの中で休憩です。

餅つきも行われていました。
今日の上棟式で投げるお餅をみんなでついています。

休憩後、大工さんは小屋組みをどんどんつくり進めていきました。


母屋を上げている様子。

母屋が組まれていきます。


上のようにして建物の傾きを直していました。

そして、11:30頃。
施主によって棟上げが行われました。

棟上げ後は垂木の作業に。




あっという間に垂木が組み終わりました。

垂木は釘で止められています。垂木の間の横の木は面戸板と呼ばれるもので垂木と軒桁の隙間を埋めてくれます。軒桁には垂木と面戸板が納まるように溝があらかじめ切られていました。
垂木は30分ほどで終了し、時刻は12時になりました。お昼休憩です。
6.お昼ご飯+屋根仕舞

本日のランチは長ネギや鳥団子の入った具だくさんの味噌汁に、おいなりさん、から揚げ、ポテトサラダです。美味しくい頂き、体も温まりました。毎度ありがとうございます。

昼休休憩の餅つきには大工さんも参戦。
子供は餅つきしたり、雪遊びしたり。とてもいい感じの雰囲気、空間です。
他の参加者は建前の手伝いをしたり、竹小舞に使う竹を割ったりしていました。

建前再開。
上は破風板をつけている様子。破風板は母屋や桁の先端を覆う部材です。
破風は防火の願いを込めた懸魚や家格を示す家紋など意匠が集中する場所でもあります。

近くで見ると釘で止められているのが分かります。

見えない部分はビスで垂木に打ち付けていました。


こちらは広小舞をつけているところ。
広小舞とは垂木の先端を押さえ、野地板の先端を止める部材です。

こちらはビスで止められていました。

野地板を貼る作業が始まりました。


板はエア釘打ち機で固定しています。

板が貼り終わりました。

その後、防水のためアスファルトルーフィングをタッカーで留める作業が始まりました。
7.上棟式+餅投げ

屋根仕舞も終わり、いよいよ餅投げが始まります。

皆さん、建物の周りに集まっています。
地域の方も参加されています。
私は今まで上棟するときに餅投げをすることを知りませんでした。
これが初めてです。年配の方は懐かしんでおられ、子供たちはこういうもんなんだと思っていたかもしれません。

施主と棟梁が屋根に上り、まずは四隅に大きなお餅を投げました。それから、

ポイッ!

キャッチ!




お祭りのような感じでした。
屋根から飯が降ってくる非日常な光景。
この雰囲気を言葉にするのはナンセンスですが、あえて言葉にするなら餅投げは集団の絆、コミュニティを維持するものだと思いました。
だから、祭りのように感じたのだと思います。
地域の方が来られたのは、餅投げがワラビーランドさんからの挨拶みたいなものだから。
お餅をプレゼント(=贈与)して、地域の方が歓迎(=返礼)する。地域のみんなで建物を建てるという昔の普請から考えてみると、お餅は施主からのお礼(=返礼)でもあると思います。
このWSにおいては、施主からのお礼はWS参加者にも向けられています。秋から始まったこのWS。皆さんで基礎を作りました(=贈与)。そして、その上に建物が建ったのです。今回のお餅は施主からのお礼です。ありがとうございます。
ここでも贈与と返礼という互酬の交換が見られました。餅投げは施主と、地域の方とWS参加者の交換であり、お餅は贈与品であり、返礼品です。
そして、それは地域の繋がりを紡ぐものだとだいうことも分かりました。(年配の方から「何を当たり前のこと言ってんのや」と言われそうですが。)
ローカルな繋がりは時には辛いものですが、大切にしないといけないと最近思います。
また、今回は昔ような地域の方だけでなく、WS参加者のような地域の方ではない人が混ざっているというのも素敵です。現代にWSで建前をするときも、餅投げは必須かもしれません。
8.貫締め

餅投げは終わり、袋を持ったまま、最後に貫を通します。
貫穴がきつかったようで、貫がすんなり通りませんでした。

大工さんが貫の調整をしている間に水野さんから貫の説明を受けます。
貫は柱同士をつなぐ水平材のこと。柱にあらかじめ穴が開けられており、そこに貫を通し、最後に楔を打ってとめます。
この貫が入ることで建物が頑丈になります。

簡単な絵を描いてみましたが、感覚的、経験的に左より右の方が丈夫なイメージがありませんか?

もっと詳しく見てみると、地震や風で柱が動いたとき柱と貫がさらにめり込むようになります。
このめり込みが地震のエネルギーを摩擦で発生した熱エネルギーや音が軋んで発生した音エネルギーに変換し、建物に直接入るエネルギーを和らげるという仕組みです。
この貫は伝統構法の大きな特徴の一つです。
一般的な在来工法は貫ではなく、筋交いという斜めの材で頑丈にします。
在来工法は戦後の住宅復興のときに広く定着したもので、元をたどれば明治時代の近代化の際に政府が招聘した西欧建築家、つまり西欧の建築文化までたどることが出来ます。
もちろん、どちらが良い悪いの話では全くありませんし、西欧と日本を簡単に二分することも難しいです。

それでは貫を入れていきます。上のように貫をしならせて入れていきました。

貫を通すことが出来たら、楔を打ちます。


上のように楔は直角がある部分を上に打ち込むそうです。
鳥居は逆なんだそう。初めて知りました。理由は分かりません。
見た目なのか、格を落として神への敬意を表しているか…
ワークショップ終了

最後に輪になってWSを終了しました。
無事に建前を終えることができました。
井関さん、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。
大工さんたちはチャーミングでありながら、かっこいいなといつも思います。 今回はあまり参加者の仕事を追うことができませんでしたが、竹割りや建前のお手伝いありがとうございます。
ワラビーランドの皆さんも餅つきやランチ、お茶などのサポートありがとうございます。
次回は3月8日と9日、竹小舞と土壁塗りのWSです。
初めての方でも興味があれば1日だけでも参加してみてください。
新たな出会いや発見と学び、そして、美味しいランチと気持ちいい疲れがついてくると思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

解散後、建物が汚れないように養生して、大工さんは仕事を終えました。