はじめに
1回目は、その土地とその地域の素材や職人に逆らわない「伝統工法の土木」について。
2回目は「自然素材の駐車場」を通して、水を土に戻し災害から暮らしを守ることについて。
3回目は「樋のない屋根と雨落ち」を通して、水を土に戻し空気も土に戻す循環について。
最後はようやく石場建ての基礎工事「根の上の礎石」です。
石場建ては、一言でいうと「その土地や自然を育てる建築」だと考えています。
現代の家作りは、基礎にはコンクリートを全面に打ち、その上に家を建て、家と基礎をボルトで固定します。家と地面はコンクリートの塊で分断され、地面はコンクリートで塞がれ水も空気も土に戻す事はできません。このやり方では、「自然とともに暮らす家」や「庭と繋がる家」とは言えないなと思っていました。
一方昔ながらの伝統的な家には、縁の下があり覗き込むと反対まで見通せます。また、基礎はコンクリートで土を塞ぐことはせず、土の上に礎石が置いてあり、家はその礎石の上に建っています。そんな石場建ての縁の下は、人に踏まれたり泥水が流れ込むことなく、土中と地面を繋げる大切な場所なのです。
いまでも荒れていない古い民家の縁の下を覗くと、しっとりした風が流れており、小さな植物や虫たちがたくさん暮らしています。縁の下を少し掘ってみると、家の回りの草木の根が酸素を求めて家の下に根を伸ばし、礎石は根に抱きかかえられているようです。
「根の上の石場建て」
昔の人たちが作ってきた「土地や自然を育てる建築」、「水と空気を通して土中と地上を繋ぐ木のような建築」、を作る為に考えている事をお話したいと思います。
建築の申請
石場建ての建物を建てる申請方法は以下の方法があります。
① 限界耐力計算
② 告示690号
③ 50㎡以下
④ 都市計画区域外
私は、①と③は経験がありますが、②と④は経験がないのでよくわかりません。
10㎡(約6畳)以上の建築物を建てる時は、確認申請が必要必要になります。石場建ての申請・構造計算が難しいという話はありますが、建築基準法を守って安全な建物を建てるために必要な申請です。
礎石の選定
では、ここらが実際の作業です。
まずは、石。どんな石を礎石として使うか。
例えば、見た目の意匠、予算、地域性、地盤の強さなどを考えて、石を種類やサイズを選定します。
今回は、自然石を使います。
自然石は、石の天端が凸凹なので、石を据えた後に柱を立てる場所を平らにする作業が必要となります。ビシャンという石槌で叩いて平らに加工する作業は大変手間がかかるので、強度的に問題の無い範囲で、加工しやすい柔らかな御影石を選定しました。
現場によっては、石材屋で加工した切り石を使う場合もありますし、一辺が90cmほどの四角い石を使用する場合もあります。厚みは割れないことが大事なので、石の大きさにもよって考えています。
石を据える前に、粗取りの作業中です。
床掘と栗石組
いよいよ床掘です。
床掘の深さは、設計時に地盤調査をして、決めています。
柱一本づつの負担軸力を算出し、どこの支持層を使うか決めて、設置面積を検討します。
浅い所に支持層がない場合は、地盤改良を行います。地盤改良は、地盤の強さや建物の重さや礎石の数に合わせて、砕石パイルであったり、柱状改良を採用します。支持層の深くなければ、栗石で置換して転圧する事もありますし、平板載荷試験で確認する場合もあります。
今回は、支持層は平らで比較的良い地盤でしたが、建物の構造上柱本数が少ない事もあり、礎石の数は21個と少なく済んだのですが、柱軸力は大きくなりました。予算や意匠の事も考慮して、今回は設置面積の大きな石を据えるのではなく、独立のコンクリート基礎で設置面積を確保して、その上に礎石を据える事にしました。
「いー二十」
石場建ての石は家が建ったあとも良く見えるので、形や錆の位置など気にしながら石を配置します。また、外周部は大雨の時に礎石まで雨は届くので、水たまりにならないよう勾配や水道を利用します。
床掘の様子です。
側面や底面は空気や水の動きを邪魔しないように手作業で丁寧に仕上げます。
床掘中に栗石を小端立てにして、栗石組の下地を作ります。
石槌を使って栗石を側面や底面にめり込ませて、石と石をしっかり組むことで一枚の版として働くように作ります。
こうする事で、土を締め付けることなく建物の重さを支えながら、水や空気が動く石と石の間の空間を作ります。
石据え
今回は初の試みになりますが、栗石組のうえに砕石を敷き、設置面積確保する為に鉄筋コンクリートの独立基礎を作りました。
もちろんコンクリートを使わない方法もありますし、そうしたかったのですが、事情があり今回は諦めました。しかし、大事なことはコンクリートを使わない事ではなく、水と空気を土に戻す事です。
私の中では、コンクリートの上に礎石を置いているのではなく、石にコンクリートがくっついているという頭に切り替えて・・・、設計しました。
型枠を組んで、鉄筋をセットする。
三又で礎石をセットし、コンクリートを打設します。
コンクリートがはねるので、石は養生する。
ビシャン仕上げ
今回は21個の礎石の上に、21本の五寸柱が立ちます。
実寸の柱を置いて、石の天端を仕上げます。
石の回りも栗石や砕石を敷き詰めて、燻炭や土や草で養生します。
石据え完了
その後、設備配管の作業になります。
土木工事
今回は4月から、外周部の丸太の土留めと自然素材の駐車場、そして雨落ちを土木の一期工事として進めました。
6月から土木の二期工事として、石据えをしました。
縞模様になっているのは、裸地の養生をしている所と、設備の工事が必要になる場所です。
石も雨落ちも完成しているので、これに合わせて家を作ります。
9月の土木見学会の時の写真。
礎石も雨落ちも徐々に草木に覆われ始めました。
この日は、家が建つ前の見学会で、草むらに石が置いてるのを見学するだけでしたが、午前午後で30名ずつ合計60名以上の方が参加されました。
2020年髙田さんの「土中環境」という言葉が生まれてから、石から上の建築の石場建てではなく、石から下の土木の石場建てに、興味のある方が増えてたこと実感します。
この日は、見学会の為に少し草を刈りましたが、あわてて草むらから虫が出てきて、その虫たちを食べにトンボが敷地内に集まってきました。ここは緑もあまりない住宅地ですが、どこからにこんなにトンボが来たんだろうと思うくらいの数でした。参加頂いた方には、生き物たちが集まる場ができる喜びを実感していただけた見学会になったのではないでしょうか。
最後に11月の写真。夏草も枯れ礎石がまた見えてきました。
これで約半年間の人間の手による土木工事が終わりました。
言い換えると、草木や虫や鳥など生き物たちの暮らしを邪魔しない為の土木工事が終わり、これからの本当の土木工事は生き物たちにお願いするのです。
さいごに
今回は、建築だけから家作りを考えている方に向けて、土木の役割を少しでもお伝えできればという思いで、「根の上の石場建て」の土木工事について、私の考えている事を4回に分けてまとめてみましたはいかがでしたでしょうか。
私は、まずはゴミの少ない家を作りたいという思いからスタートしました。そのうち、ゴミが少なくても長持ちしなければゴミを減らす事に繋がらないと考えるようになり、あれこれ考えているうちに昔から永く住み継がれている民家の素晴らしさに気付き、伝統工法の建築を実践するようになりました。
ゴミを減らし長く持つ家が作れるようになってきたと思うようにはなりましたが、そもそも家を作る事や建築材料を生産する事は、自然環境に大きな負荷をかけている事を調べるようになりました。次は、いかに自然に負荷をかけない家作りをするか、それよりも家を作れば作るほど自然が育っていくような家作りが出来ないだろうかと考えるようになりました。
それまでは建築ばかり考えていたのですが、ある時から建築だけでなく土木の視点まで広げると、まだやっていない事が山のようにある事に気付きました。それ以降、建築と同様に既に昔の人たちが実践していた「伝統工法の土木」を実践するようになりました。
今回何度かお話ししている「自然とともに暮らす家」「庭と繋がる家」を実現する為には、土に水と空気を戻して土を育てること、育った土には草木が育ち虫や鳥が集まり生き物たちが自然を育ててくれること、この視点が大切ではないかと思います。
ぜひ、こんな視点もあるんだという事を、一人でも多くの方に知っていただければ嬉しいです。
さて、大工の舞台が整いました。
次は建築です。