4月のワークショップは、三和土と同時に「瓦の土葺き・日干しレンガ土塀・版築土塀」も進行していました。今回はそのお楽しみプロジェクトのレポートです。
10年前ぐらいから版築壁には興味があったのですが、なかなかきっかけがないまま時間が過ぎていました。
そんな時たまたま今年の初めに、岐阜市の大学で土壁や版築や団子積みなどの研究をしている畑中先生とお会いする事ができました。私は数年前に畑中先生の講義を拝聴したりと一方的に知っていましたが、実際に畑中先生の研究室でお話をお聞きすると、とにかく楽しそうに土の話をされもんだから、私の創作意欲も大爆発してしまいました。
そんな時に、たまたまワラビーランドでは土壁と三和土のWSで皆さんが集まって下さる(笑、しかも現場には泥や土や砂や石灰や藁や竹や石など素材が有り余っている(笑
という事で、ワラビーランドさんには事後報告で始まってしまった「お楽しみプロジェクト」なのです!
初めての事ばかりですが、やるからには職方の左官の森さん、瓦屋の今井さん、大工の井関さんに、モレなく腕を振るってもらって、必ずや素晴らしいものが生まれるはずです。
では、武部さんのレポートです。
こんにちは、スタッフの武部です。
ワラビーランドの和紙蔵つくりワークショップの8回目のレポートのお楽しみプロジェクト編です。
前回のレポートでは三和土のみを取り上げましたが、その隣では土塀の瓦や版築土塀の作業が行われていました。今回はこれらにフォーカスしたレポートです。
これまでのレポートを順に読んでいただけるとこのWSの全体像が見えてくると思いますので、ご興味があればぜひ過去のレポートを読んでみてください。
瓦の土葺き

まずは日干し煉瓦土塀に瓦を葺く作業を見ていきます。
職人さんは下呂の日下部瓦店の今井さん。今井さんは以前に蔵の瓦を葺いていただきました。
今回は日干しレンガ土塀の瓦を葺いていただきます。
蔵の瓦を葺く様子と日干しレンガ土塀づくりの様子は過去のブログを見てください。
古材の骨組みに、土の煉瓦を、土で積み上げた、土塀。土まみれの塀にはどのような瓦を葺くのでしょうか。
使用する瓦について

こちらが今回使用する瓦。この瓦には物語があります。
これらは能登からやってきました。
2024年の能登半島地震で被災した家屋に使用されていた瓦です。
今井さんが能登半島でのボランティアを通して、被災した瓦を救出されました。特に被災した瓦の流通ルートがあるわけでもなく、今井さんと被災者の個人的な関係を通して救出されたそうです。
瓦屋さんとしては瓦を入手でき、被災者としては処分に困っていた瓦を処理してくれる。
今井さんはこのようなWin-Winな関係が素敵だとおっしゃっていました。
このままでは廃棄されてしまう運命にあった瓦が、今井さんの手によって、もう一度役割を与えられてワラビーランドにきています。
荒れた土地には必ず再生の芽が潜んでいる。
そういう僅かな希望をもって、それに気づく術を身につけたいと思いました。
ワラビーランドだって同じです。焼野原になった土地に、出会うはずのなかった人たちが偶然出会い、建物を一緒につくる。なかなか素敵な話です。
能登の瓦をよく見ていきます。
能登は陶器系の瓦で、塩害と凍害対策のために裏側まで釉薬が塗られています。
また、黒色の釉薬は熱を吸収して、雪を溶かしやすくするそうです。
この瓦は約60年ほど前のものだそうですが、重さも焼成温度も現代の瓦とほとんど変わらないそうです。
では、昔の瓦と現代の瓦は何が違うのか。
それは瓦の大きさと製造品質の差にあるそうです。
現代の瓦は一坪に53枚葺くことができますが、昔の瓦は一坪に49枚ぐらいしか葺くことができないそうです。つまり、昔の瓦のほうがサイズが大きいということです。
そして、昔の瓦を一つ一つ見比べるとわかりますが、形にバラつきがあります。現代の瓦にも多少のバラつきがありますが、昔の瓦のほうが大きいです。
昔は均一に瓦を焼く技術に乏しかったということでしょう。
そして、このバラつきをカバーするのが職人さんの技術です。
瓦を葺く

今井さんは瓦の大きさを整える作業から始められました。

これが瓦を葺く前の土塀の様子。

上から見るとこんな感じ。

瓦を葺く作業が始まりました。
棟木の部分に釘が打たれ、ホルマル線がまかれています。そこに土を載せ、瓦を載せ、ホルマル線と瓦を結んでいます。
まずホルマル線についてですが、かつてはホルマル線ではなく、銅線が使われていたそうです。
銅は錆びにくく、錆びてもあまり膨張しないという特徴があります。戦後、住宅の需要が加速する中で効率よく、安価で施工できるということで主流は鉄釘に移ったようです。
しかし、鉄は錆びやすく、酸化膨張率が大きいという問題がありました。
そのため現在はホルマル線を使うようになったそうです。

かつての職人さんは良かれと思って鉄釘で瓦を留めたが、後になって問題があることが分かった。
それは現在も同じで、もしかしたら、ホルマル線でも問題は起こるかもしれないと、今井さんはおっしゃっていました。とても冷静で謙虚な視点です。
その視点の背景には完全なものはなく、職人の技術だけがそれを補うことができるという職人の技術への信頼を感じました。何があっても我々がいるので大丈夫です、ということでしょうか。

次にホルマル線の位置を見てみましょう。
瓦の中央を避けて、緊結されています。瓦中央に雨水が流れ落ちるので、その中央を避けることでホルマル線を長持ちさせようということみたいです。

次は土を見ていきます。
瓦葺きに使う土は土壁の土と異なります。
瓦葺きの土は土壁の土に比べて、砂が多く、硬くてコシのある土です。

土は雨に濡れないように、瓦の手前でとめて施工するようです。


軒瓦を葺き終わり、巴瓦の作業に入られました。巴瓦とは鬼瓦より外側にある、棟の先にある丸い瓦のことです。

気が付けば鬼瓦がのっていました。鬼瓦も上のようにホルマル線で留められています。

こちらはのし瓦を葺いている様子。のし瓦も同様にホルマル線と土で留められてます。

瓦と瓦の間が互い違いになるようにすることで、雨漏りのリスクを避けるそうです。また、瓦とのし瓦の隙間の土をみれば職人の腕がわかるそうです。
また、軒瓦の側面中央に模様が彫られているのがわかりますでしょうか。これはただの模様ではないそうです。この模様があることで瓦を伝う雨の勢いが緩和されて、雨がまっすぐ落ちるようになるそうです。この模様がなければ、雨がものすごい勢いで瓦の裏側まで雨が伝い、家にダメージを与えることになるみたいです。

今井さんは瓦は隙間なく、みっちりと葺くのではなく、空気が通るようにすることが大切だとおっしゃいます。
そうすることで下の木にとっても良いとのこと。
言われてみれば、当たり前のことですが、はっとしてしまいました。
この地球で暮らすには水や空気と向き合うことが必須です。
しかし、私含め現代の多くの人は水と空気の関係は昔のそれとは異なります。水と空気の流れは見えにくくて、絵に描きにくい。
昔はある種、信仰として捉えていたのかもしれませんが、現代ではなかなか難しいです。それを何とか捉えようとした取り組みが土中環境という言葉にありそうです。

のし瓦が終わり、いよいよ冠瓦です。

こちらもホルマル線と土で留められています。

目の錯覚のため、左右の瓦を少し高くすることで瓦が水平に見えます。
以上が土塀の瓦葺き作業でした。
初めて瓦葺きの作業を見ることができました。しかも、こんなに間近に。
今井さんは丁寧にどんな質問にも答えてくださり、本当に勉強になりました。
今井さん、ありがとうございました。
また、職人さんの技術の価値を改めて認識することもできました。
瓦の製造の話や能登から瓦を救済した話から、機械の技術と人間の技術は何かしらの関係がありそうです。機械側の技術が向上すれば、誰でも簡単に効率よく。つまり、均質なものへの方向へ。
人間の技術は何かを救出し、再生させたり、あるいは一品物をつくる。つまり、歪なものへの方向へ。
そう考えると人間の技術を支えるのはつくる楽しさや喜びかもしれません。
日干しレンガ土塀の鏝絵


今井さんが瓦を葺いている隣で森さんが看板の絵をかいていました。

夜はビールを片手に。絵を描くことをとても楽しんでいるように見えます。
版築土塀
次は版築土塀を見ていきます。
版築とは土が層になるように叩き固めて積み上げることを言います。
三和土を垂直に重ねるようなイメージでしょうか。塀に使われたり、かつては建物の基礎の地盤に使われていました。基礎地盤に版築を用いるのは平らな面を作り、地盤沈下を防ぐということを聞いたことがあります。
現在のコンクリートのべた基礎みたいなものでしょうか。
型枠づくり

版築土塀は型枠づくりから始まります。
この蔵の棟梁である大工の井関さん主導のもと作業が進められました。丁張をして、位置と高さを決めていきます。


丁張をもとに基礎となる石を据えていきます。
石畳工事でもお世話になった庭師のブンさんと柿野さん主導のもと作業が進められました。

土や小さい石を使って石の高さを調整し、きれいに強固に基礎がつくられています。

日干しレンガ土塀の基礎はこうなっています。土と石のせめぎ合いが素敵です。
版築土塀のほうはどうなるのでしょうか。

石が据え終わり、最下層の下地のような部分がつくられています。


最下層ができたら、それを囲うように型枠が組まれました。
土が入ると外に向かって力が働くので、型枠が外れないように内部は鉄の線でしっかり固定されています。

外からは杭で固定されていました。
土づくり

版築土塀の型枠が出来たら、土づくりをします。
この日は雨だったので、上の写真のように作業場所を整えました。

要領は三和土の土と同じです。土と消石灰を3:1の割合で混ぜてから、にがりと水を加えていきます。

三和土の土づくりと異なるのは版築の層をつくるために、色土を混ぜたり、砂利を入れたりしたことです。
また、三和土の土づくりでは水を加えるときは手で混ぜていましたが、この日はすべて機械で混ぜました。
砂利を加えると何度か機械が止まってしまいました。
ここで作った土は版築の現場に運ばれます。
土を叩く

こちらが版築の現場。
ここに土を運びます。

1日目につくった型枠に骨組みとなる竹を編み、そこに土を流し込みます。

あとはひたすら叩くだけです。

色のついた土を入れて

叩きます。

休憩して

叩きます。

型枠いっぱいになるまで叩いて終了です。
完成はどうなっているのでしょうか。
いつか報告できたらと思います。
完成をお楽しみに。
後日
WSから1か月後、現地を訪れました。

日干しレンガ土塀の看板はこうなっていました。

きれいです。

側面はこうなってました。

版築土塀はまだ眠っています。
ワラビーランドの一番目立つ場所に、横180cm 高さ90cm 奥行60cmの土の建造物です。
次回7月6日のWSで開封の儀が執り行われます、お楽しみに。