インターン日記 Sさん(2026年8月)

夏にインターンに来てくれた S さんから、早速日記が届きました。
今回、模型づくりをしていただき、初めて設計事務所らしいインターンになりました。

 


 

はじめに 

2026年8月中旬から20日間インターンシップでお世話になりました、Sです。

八百津から実家のある大阪に帰る道中ですでに、土や石に囲まれたくて、触りたくてうずうずしたこと、毎日スタッフの山岡さんと足を真っ黒にして歩き回り、そのまま事務所に行ったら、水野さんに川で洗ってきなさいと言われた日々を懐かしく思いながらこの文章を書いています。

さて、私は現在ミラノ工科大学というイタリアの修士課程で歴史的建造物の現状調査、保存設計をしています。約1000年前に建てられた石造やレンガ造の教会を現代の人々の暮らしに受け入れてもらうにはどのような設計をすべきか、などといったことを考えています。

このように私が普段勉強していることを書くと、水野設計室との親和性があまりないように感じられるかもしれません。しかし、建築をできる限り長く使うことで自然環境への負荷を減らしたいという考えは、どこか共通する部分があるのではないかと思っています。というのも私は、既存建築物を正しく調査、改修することで建物の長寿命化を図り、建物を建てるときや壊すときに生じるエネルギー消費を抑えたいという思いがあります。

私は伝統工法や手仕事でつくる建築に関わることのできるインターンシップを探す中で、過去のインターン生の日記を見つけたことをきっかけに応募しました。水野設計室に出会わせていただけたことに心から感謝しています。ありがとうございます。

 

 

暮らし

初日は多治見駅に16時に待ち合わせをしました。車から降りてきた水野さんはなんというか、野性的な雰囲気がありすぐにみつけることができました。

八百津での生活が始まってまず初めに思ったことは、私にとっては外国より外国であるということでした。火を起こしたらブロワーで酸素を送る、お米は土鍋で炊く、野菜は畑から、卵は鶏から、軽トラの窓の開閉はハンドルを回す、蚊取り線香は2枚重なっていることなどなど、挙げ始めればきりがありませんがとにかく刺激的な毎日が始まりました。

 

 

大まかな一日の流れとしては、午前中の涼しいうちに鶏の給餌、畑や田んぼでの外作業、朝食とシャワーを済ませて、事務所で作業、といった感じでした。食事の大半は水野さんの家の敷地で採れたものをいただいき、山岡さんと一緒に食べていました。お米がものすごくおいしく、彼女は料理もお話も上手なので、毎食がとても楽しい食卓でした。

時折、水野さんがお酒とじゃがバターを両脇に抱えて現れ、机代わりの卓球台をみんなで囲んで建築のこと、暮らしのこと、将来のこと、恋愛のこと、いろいろな話をしました。
私にとってとても大切な時間でした。畑や田んぼ、鶏、そして周りの人にこんなにも支えられて自分が生かされているのだと痛感した20日間でした。

 

 

 

石場建て

期間中、私は主に軸組み模型づくりを通して、石場建ての軸組や水野さんの設計を学びました。合計2つの軸組み模型をつくりましたが、最初はお二人が話されている部分名称や図面の読み方も要領を得ず、大学時代に習った知識を頭の隅から引っ張り出すのに必死でした。

 

 

なぜ石場建てが評価されているのか。
私なりに考えた一番の理由は地震時における建物の挙動です。

私自身も水野さんと話をするまで勉強不足でしたが、石場建てでは地震の規模に応じて建物の抵抗の仕方が変化します。比較的小さな地震では木造軸組の剛性によって抵抗し、より大きな地震では、仕口などの接合部が変形することで地震エネルギーを吸収します。さらに大きな力が加わった場合には、基礎石と躯体を緊結していないことによって、躯体が基礎石の上で移動し、建物に作用する力を逃がすことができます。

つまり、石場建ては建物を動かさないのではなく、状況に応じて適切に動くことを許容することによって、建物にかかる負担を軽減する仕組みだということです。
実際に大きな地震が起きた際も、石の芯から躯体がずれただけで、躯体自体は無傷であったという事例もあるようです。その際はジャッキアップをすれば元通りです。

さらに、真壁を用いることが好ましい理由や地盤や材料選定の重要性、周辺環境への影響についても学びました。これらの考え方の一つひとつを知ると、石場建てが長い時間をかけて培われてきた合理的な工法であることが理解できます。

設計に関しては、水野さんから「私は今、昔の民家を作っているだけ。古民家を再生しているのをよく見かけるけど、将来古民家になる新築を今建てておかないと、50年後、100年後の人たちが再生する民家がなくなっちゃうでしょ。」と言われたとき、私が既存建築物の保存設計を勉強できているのは誰かのおかげであること、建築物を保存することだけが建築との向き合い方なのではなく、未来に残すべき建築をつくることもまた、建築文化を継承していくために必要なのではないかと考えるようになりました。

 

 

 

土中環境

インターンシップが始まって約一週間が経ったころ、御嶽山に環境改善のために水野さんが図面を描いた土木の現場があるということで同行させていただきました。そこで見たのは、山道を横断するように三列に並べられた川石と、その間に挟まれている二本の丸太でした。

これは、山道に雨が降った際の排水問題を解決するためのろ過装置のような仕組みです。
雨が降ると、水が山道の表面を流れ、土砂を削ってしまいます。そこで、炭や藁、木、石などの自然素材を用いてこの仕組みをつくり、地表を流れる雨水を地中へと染み込ませます。これによって、土中に水と空気の循環を生み出し、菌糸類の発酵や植物の根が地中を這うことを促すことで、健全な土中環境の形成を目指すそうです。

この山道は人間だけでなく、車が通ることもあるため、しっかりと石を据えていきます。

 

 

作業中は、たくさんの職人さんの仕事を隣で見せていただきながら自分にできることを探します。石を運んだり、入れたり、藁を刺したり…。もちろん、どの仕事にも一つひとつ意味があり、それを順序立てて教えてくださる方々だったので、実際に作業をしながら腑に落ちていく感覚がとても心地よかったです。

気さくな職人さんばかりでいろいろな話をしましたが、仕事や環境にかける思いはかなり熱く語られるのに対し、作業中は黙々と打ち込む姿がとてもかっこよかったです。お二人が職人さんを尊敬している理由を、本当の意味で理解できた気がします。

打ち解けてくると、「川石、据えてみる?」と声をかけていただき、意気揚々と石を持ってみましたが、これがまためちゃくちゃ奥が深く、なかなかうまく入りません。
その分、うまく石が据わったときの快感はくせになります。この快感を職人さんはシンデレラフィットと呼ぶらしいです。まさかの横文字で驚きました。

作業中は天候が悪く、あまり良い写真を撮ることができていないのですが、作業を終え旅館に向かう際に見た雲海はとても美しいものでした。

 

 

 

鳥の巣

まさか設計事務所のインターンに行って、鳥の巣についてあんなに熱量高く話をしてくれる人がいるとは思ってもみませんでした。

初日に水野さんがおもむろに鳥の図鑑を取り出し、「鳥の巣つくりたいんだよね」と一言。
実は私も大学時代に鳥の巣に興味を持ち、似たような本を持っていたので調べてみると、どちらも鳥の巣研究家の鈴木まもるさんの本でした。

思いがけずその話で盛り上がり、休みをいただいたときに、試しにコメンガタハタオリの巣をつくってみました。初めての試みだったので、うまくいかなかったら草をほどいて自然に返そうと、少しずるいことも考えながらの挑戦でした。

本や動画で鳥から作り方を学び、形にしていく作業はとても面白かったです。インターンが終わってもなお、どこかに鳥の巣ができていないか、よい草は生えていないかを探すのが癖になりつつあります。

私は、建築設計を学校で学んでいると正解のない問題に延々と立ち向かっていくような、もどかしさを感じることがあります。その点、鳥の巣は基本の形は同じでも、つくる個体によって形も大きさも異なります。まねるところは鳥からしっかり学べば、あとは手を動かすだけなので、とても気楽につくることができました。ものづくりが好きであることを思い出すきっかけとなりました。

 

 

インターン最終日前夜にみんなで鳥の巣をつくってみました。
私は前回のハタオリの巣の隣にアフリカサンコウチョウの巣を、水野さんはハタオリの巣を。やはりここでも材料と場所の選定は大切でした。真剣なまなざしで、太く乾燥してしまった草を細かく三枚に割いている水野さんを横目に、隣では疲れてうとうとしている山岡さん。よいコンビだなと。

期間中、水野さんに何度か「インターン中にやりたいことないの?」と聞かれました。最初は何も答えられなかった私ですが、この巣づくりをきっかけに違う巣も作ってみたい、螺旋階段も作りたいし、あの本も読みたい、と最後には20日間では時間が足りないくらいのやりたいことが出てきました。これも成長かなと思います。

近くにある材料で、使う者たちで安全な居場所をつくる。この姿勢は、人間も見習うことのできることがきっとあります。今は緑色の巣がだんだんと茶色に乾燥していき、もっと巣らしい雰囲気が出てくることを楽しみにしています。

 

 

 

おわりに

20日間本当にあっという間でした。毎日が新鮮で自分の知らなかった世界がものすごい速度で広がっていく。こんな素敵な経験をさせていただいたことを黙っていることができず、とても長い文章になってしまいました。

普段のお二人との会話だけでなく、見学会などのイベントを通して、ここに来なければ出会えなかったであろうたくさんの方々と出会い、お話しさせていただきました。皆さんそれぞれに自分が理想とする暮らしに向かって行動し、問題が起きれば助け合いながら解決し、いきいきと対話されている姿が印象的でした。建築だけでなく、どう暮らしていきたいのか、どう生きていくのか。そんなことまで考えるきっかけをいただいたように思います。

迷ったらやってみる。
「やりながら解決方法を探すのが楽しくてたまらない。」水野さんの言葉です。
将来のことは不安ばかりですが、何とかできると信じ、とにかく今一番自分の気持ちが躍る方に進んでみようと思います。そしていつかお二人と建築や暮らしの話が対等にできるくらいの経験を積むことができたら、また八百津に遊びに行かせてください。

とにかくお二人のやり取りが軽快で面白く、毎日笑い転げていました。
本当にありがとうございました!AMORE!!

 


 

はじめて3週間の受け入れでしたが、模型を2個も作っていただいたり、構造見学会・暮らしの会・学生さん受け入れなど毎週末のイベントも手伝っていただき、大活躍いただきました。

そして、なにより嬉しかったのが、小鳥の巣も2個作っていただいたこと。

 

 

 

 

現在鳥の巣は、ほんのり枯れ草の香りがして、徐々に枯れ色に変わってきました。
ちゃんと入り口もありますし、卵も入ります。
あとは外に置いといて、実際に鳥が住み始めてくれたら、S さんには「鳥の巣 設計室」を開業していただくことにしましょう。

あまりに楽しかったので、今後のインターンのカリキュラムに「鳥の巣づくり」を加えようと思います。
そして、毎年少しずつ鳥の巣をつくって、いつかみなさんと「小鳥の住まい展」を開催することにしましょう。

では、今後インターンに来ていただける方は、小鳥になれる想像力と、子供と同等かそれ以上の好奇心を持って、お越し下さい(笑。