【ご案内】3月31日 三和土ワークショップ

インターン日記 Tさん(学生)

初めて水野設計室のインターンに来て頂いたTさん。
これからインターンを検討いただく方に向けて、インターン日記を書いて頂きました。 


 

この度インターンシップでお世話になりました、京都工芸繊維大学大学院建築学専攻のTです。
私は学部時代から茅葺きの研究をしており、来年からは茅葺き職人に弟子入りする予定です。

水野さんが茅葺き民家の改修設計をされていることに加え、茅刈りや田んぼなど、建築のまわりのことにも関わっておられることに興味を持ちインターンシップの受け入れをお願いしました。
連絡を入れたのはちょうど田んぼが黄金色に輝き出した時期。水野さんからは「自宅の稲刈り作業が中心になりますが大丈夫ですか?」とお返事をいただきました。

茅葺きの「茅」とは屋根に葺く材の総称で、稲ワラも茅の一種です。
私がよく研究でお世話になっている職人は軒に稲ワラを使うことがありました。また、多くの地域で部材を結束するために稲ワラをなって作ったワラ縄が用いられます。
一方、最近はコンバインで稲刈りをするから稲ワラが手に入らなくなったという話を現場でよく耳にしていました。稲刈りと茅葺きは切っても切れない関係だと知ってはいたのですが、私自身一度も稲刈りの経験がなく、この機会に自分の手と身体を使って経験したいと思い、二つ返事で岐阜県八百津町へと向かいました。

水野さんはバインダーで稲を刈り、稲架掛けをして乾燥させます。
バインダーは人が手を添えて一緒に田んぼを移動しながら、十分な量の稲がたまると自動で結束されて、横にはじき出されます。ガーーーッ(前進しながら刈り取り)、バイン(結束してはじき出す)、ガーーーッ、バイン。といった要領です。これを手刈りでするととてつもない時間がかかる。しかし、だからといってフルオートで行わないのがおもしろいところ。バインダーは人の手で微妙なズレを調整しながら前進していく必要があり、人と機械とがお互いのちょうどよいところを探り合っている感じが心地よく病みつきになりました。

 

 

そして、水野家総出で行った稲架掛けの作業がなんとも茅葺きの現場に似ていて楽しかったです。
私が稲を稲架に掛けていると、まだ稲架には背が届かない小学5年生の息子さんが稲の束を次から次へと私の足下に運んできてくれました。足下の束がなくなりかけるとすぐに新しい束が補充され、スムーズに稲架掛けが進んでいきます。(息子さんは稲刈り歴5年以上のベテランです…!)てったいが茅を運び、職人が屋根に葺く。偶然か必然か、茅葺きと同じことが田んぼの上で行われていることに驚きました。

 

 

稲刈りの合間、環境改善の現場にも連れて行っていただきました。
「環境改善」は聞き慣れない言葉でしたが、主に造園の職人が土中の水と空気が健全に行き来できるように土中環境を改善する現場でした。(こんな簡単な言葉では説明がつかないくらい深い深い分野でした…)私が茅葺きの研究をしていると話すと、1人の職人から「上物(うわもの)の人ね」と言われました。業界ではよく使われる言葉なのかもしれませんが、私にとっては刺激の強い言葉でした。「飾りもの」のようなニュアンスに聞こえたからです。茅葺きはあくまで目に見えているもので、土中にはまだまだ広い世界が広がっている、そして土中を健全にすることと地表の豊かさはつながっている。そんなことに気づかされました。茅で屋根を葺くのであれば、当たり前のように土中のことを考えていく必要があるのだと知りました。

 

 

私は卒業研究で材料調達の現場である茅場の研究をし、その後も茅場に関心を持ち続けています。しかし、時折茅場を維持する理由が分からなくなることがありました。生物の多様性の維持などの話はどうしても自然を守ることを目的に行動している感が否めなく。。人が茅を刈る本当の理由は何なのか。もう少し納得できる説明があるのではないかと思い、水野さんに茅場を維持する理由について伺いました。水野さんは「茅場は緩衝地帯だと考えている」とおっしゃいました。つまり、茅場は里山と同じで、自然と人とがちょうどよい距離を保ちながら共存するための空間であると。これは田んぼも同じです。決して、自然保護のために茅場を維持するのではない。人が生活していく中でまわりの環境がいつのまにかよくなっていく。この感覚が腑に落ちました。

 

 

また、インターン期間中、水野さんの仕事を建築雑誌に掲載するための取材日が迫っていたので、そのことについてよく話題になったのですが、水野さんが「(設計した家の写真を)今じゃなくて50年後に撮ってほしいな」とおっしゃっていたことが印象的でした。決して竣工時が完成ではない。そこに人が暮らし、自然とちょうどよい距離感で関わりながら家をつくっていく。普遍的な家づくりがたしかにここにはありました。

その後季節は巡り、脱穀や茅刈り作業でも大変お世話になりました。茅葺きの新しい形をつくらなければと葛藤していた時に、大事なことは思っていたよりも近くにあると気づくことができました。長期に渡りお世話になり、本当にありがとうございました。

 


 

Tさんには、インターンで稲刈り体験に来て頂いたにも関わらず、稲刈り二日目に私が全治一か月の怪我をしてしまい(泣笑)、ほぼ全て稲刈りをして頂くという事となり、大変申し訳なかった。また私にとってはタイミングがとても良く、雑誌の原稿の事や、パネリストの資料作り、スタッフ・インターン募集など、建築学生の目線でいろいろ相談に乗って頂き、お世話になりました。特に茅葺きの話と建築学科の話が面白かった。

Tさんは、卒業されたら茅葺き職人になられるとの事。
一人前になって独立した時には、茅葺き屋根の仕事を依頼できるよう、私も頑張らねばですね。
立派な茅葺き職人を目指して頑張って下さい、応援しています!
ありがとうございました。