7月の見学会・WSのお知らせ

茅場の再生(春)

はじめに

茅葺き屋根を建築物として意識するようになったのは2017年。
私が2軒目の石場建ての構造見学会を開催した時の参加者の1人から話を聞いたのが、最初のきっかけでした。

彼は私と同じ伝統工法の設計者で私よりも若かったが、当時彼は限界耐力計算の石場建ての申請を年間数件も通していて、日本で一番石場建てを下ろしている工務店の設計者でした。

その彼が「石場建ての軸組も好きだけど、茅葺き民家の軸組の美しさにはかなわない。僕はこの前我慢できずに一軒茅葺き民家を買ってしまった。多分水野さんも僕と同じこと言ってるからハマりますよ・・・」というようなこと言われました。初めて同世代で伝統工法の話ができる設計の友達ができた嬉しさもあり、あっさりとすぐに茅葺き民家にハマっていきました。

 

あれから10年。
茅葺き屋根はまだない.が、まずは茅場を手に入れた。

 

Tomohiro Mizuno 水野設計室(@mizunosekkei)がシェアした投稿

 

 

1.茅場という里山

 

 

この茅場はこの2026年の春からお借りする事ができました。
もう随分と茅場として利用されておらず古茅交じりの荒れ地だったので、まずは古茅を刈り外に出して2026の冬には屋根に使える茅が生産できる茅場に再生することから始めます。

というわけで、この春インターンの皆さんと茅場整備に3月と4月の2回行ってきました。

 

 

最初の茅場の状況はこんな感じです。
去年や一昨年の茅が、雪につぶされて曲がったり倒れています。

 

この茅を刈って束にして、茅場の外に運びます。

古茅を刈る理由ですが、古茅はパキパキ折れてしまい上手く葺けないので使えません。残しておくと、翌年新しい茅と古茅が混ざってしまい選別が不可能なのです。翌年に茅を生産する為に、春には一旦全て茅を刈ります。

茅場の外に茅を運びだす理由ですが、茅場の土地を養分の乏しい瘦せ地にする為です。
茅も竹も材木も同じことですが、自然素材の弱点は自然の素材であるからこそ虫に食べられてしまうことなのです。他の生き物に食べられなくする為には、単純に虫にとって美味しくない素材であれば良い。野菜と一緒で窒素分が多ければアミノ酸も増えて美味しくなるが、古茅を持ち出せば窒素分は減り虫にとって美味しくない茅となる。木や竹の切旬や乾燥も同じで、極力養分が少ない時期に伐って、葉枯らしなどして乾燥させて養分を抜く事で、虫に食べられにくく私たちにとって都合の良い素材を生産する事に繋がるのです。

 

 

2.ワークショップという共同作業

 

言うのは簡単ですが、実際に行うのは大変な労力です。

そこで今回考えた作戦は、インターンの皆さんが楽しんでもらう為、茅場の隅に茅の大きなベッドを作って、昼寝するぞ!
ということにして、どんどん刈って束にして運び出していただくことにしました。
思惑通り、皆さんよく働いてくれました(笑

 

 

はい、そしてこうなりました。
これこそ、杉山さんに教えていただいた「カヤンスベッド」(笑

屋根の茅とは違って、想像以上にフカフカで寝心地の良い「茅のベッド」。
休憩がはじまると、皆さんしっかりお昼寝を始めました。

 

 

茅葺きの現場で茅の屋根の上で寝るのは特別な時間なのですが、何と茅場でもできてしまうんですね。
普通は屋根に使うので、こんな事はできませんが、、、
今回は古茅刈なので、特別です。

 

 

寝心地は最高で完ぺきな作戦かと思っていましたが、

なんと休憩時間が終わっても起きてくれない事態が発生。
「カヤンスベッド」を取り入れる場合は、休憩は終わらない事を計算に入れて、作業をする必要がありそうです。

 

 

でも、心地良いから、起きられないのもしょうがない。

 

 

1回目に刈った茅は茅場にカヤンスベッドを作りましたが、2回目に刈った茅は持ち帰って家にもカヤンスベッドを作ることにしました。
夢だった軽トラに茅を積んで、鶏小屋の屋根の上に作りました。

 

 

新たな休憩場所ができました。

 

 

3.私の茅場

4月に行った時には、3月に刈った茅から新芽が出ていました。
真っすぐの立派な茅に育ちますように。
今年の冬の茅刈りが楽しみです。

 

 

しかし、自分で管理できる茅場を持つことは、何と楽しい事なんでしょう。
今までは毎冬誰かの茅場に刈りに行っていたのですが、いつも同じ茅場というわけでもなかったので、茅場との関りは刈る時だけでした。これからは自分の茅場に毎冬刈りに来れる。冬以外にも春も夏も秋も茅場の世話に行こうと思う。

良質な茅を育てる為に手入れをして、車を停めやすくする為に駐車スペースを石積みで拡幅したり、休憩する場所を作ったりとやりたい事がどんどん増えてしまいます。

 

 

早速4月のワラビの季節にまた茅場に行きました、ご覧のように一面ワラビ園。
篭が引きちぎれそうなぐらいにワラビを収穫して帰ってきました。 
来年は皆さんでワラビ取りに行かねばですね。

 

 

他にも茅場に様々なウンチが落ちており、茅ねずみの空き家もあります。

 

 

4.人の暮らしと人以外の生き物の暮らし

 

この茅場でこれが里山なんだと確認した。

私は草屋根が欲しいから茅を刈る。
茅で何か作りたいから茅を刈る。
ただで手に入る素材だから茅を刈る。
地主さんにとっては、耕作放棄地の管理(草刈り)が不要になる。

茅を刈った後には、春にワラビが生えてみなさんのご馳走になる。
茅場に関わると人が集まる場が増える。

人の都合で生まれた草原には、草原に暮らす生き物の場となる。
多様な生き物が自然のバランスを保ってくれる。

「昔の合理的だった家づくりが、現代に合わないから作られなくなった」というような話をよく聞く。
合わない部分や作られなくなった部分は、家のつくりかたでもなく、素材でもなく、住まい方でもなく、素材の生産なんだと。

今の建築の素材の生産は、その建築の素材を生産することだけ考えているから、非効率で社会のルールに振り回されてバグが生まれて持続可能でない。
でも昔は人の暮らしの中で建築の素材が生産されていたから合理的で持続可能だった。

昔の人の暮らしに必要な食糧や衣服や生活用品や建築すべて自然の素材だったから、それぞれの関係性も深かった。
さらに大きな範囲で自然災害の発生を予防することにも繋がっていた。
つまり、一つの目的を合理化するのではなく、目的の関係性を増やすことで合理化に繋がっていた。

これが上手く働けば、わざわざお金で買うより、暮らしの中で生産することを選ぶ事例が増えてくるかもしれない。石油が止まったって、物価が上がったって、影響は少ない。

もちろん草屋根が一般的であるとは考えていませんが、これからは茅場を一つの実験の場として、素材の生産が一石二鳥ではなく三、四、五と、暮らしの中の様々な関係性を繋げる可能性を探ってみようと思います。

そして何より、私が私の暮らしの為に関わっている里地里山で、他の生き物たちの暮らしを支えることができたら、そんな心が喜ぶことはない。

 

 

 

終わり

では、次回は夏に報告します。