伝統工法の家作りの最初は、まずは素材の選定から。
柱梁などの構造材や造作材の木、壁や土間の土、そして基礎となる石。
自然素材の家作りの特徴は、地域の気候風土に従った工法であることはもちろん、地域性豊かなその地域の素材を使う事です。
今回の石は、中津川の蛭川の御影石です。
石のサイズは、地盤の強さと柱一本一本の軸力に合わせて決めます。
今回は、建前の最中に蹴っても動かない程度の重さで、石の上で六寸の柱が滑っても落ちない程度の大きさで、礎石天端の仕上げが楽な石です。
最近のコンクリートと鉄筋の値上がりで、予算的にも石場建ては提案しやすくなってきましたが、それでも石を据える作業は手間がかかります。
石を据える事を思うと、大きな材で飛ばすか、大工で何とかして、石を減らしたい。
でも柱軸力は、出来るだけ大きすぎず小さすぎず上手く配置したい。
建て主さんの要望や職人さんの仕事を押さえつつ、無駄な材料や手間のかからない軸組とし、コストを抑える工夫が大事だと感じています。今回の石は全部で30個、1.25個/坪。
こちらは石据え中の現場です。
今回の土地は、以前田んぼだった土地です。
家を建てるにあたり、作業性・居住性を考え、今回は表層の土を一度すきとり、山ずりを敷く事にしました。山ずりとは、砂から20cmぐらいの礫までが混ざり合った石材です。
水はけのよい土地なら、その土のまま石据えで良いのですが、雨が降ると水が浸みこまず地表がズクズクになる所では、表層の置換もやむを得ずと判断しました。
当初は、盛大に木杭を打ち込もうと思いましたが・・・、ちょっといろいろ無理でしたね。
山ずりは水はけは良く、草も生えてきます。ただ植樹したい所は、土の入れ替えが必要です。
今回は家の周囲と駐車場の位置の最低限の面積に敷きました。
周囲には土や草を残したので、家が完成した後は、木を植えて、土作りです。
こちらは石据えの風景。
穴を掘って、炭と石を敷いて、石を据えるです。
仕上げは石の天端をビシャンで加工です。
石据えに興味のある方は、こちらの動画をご参考ください。
石据えと同時に、雨落ちも作ります。
今回も、雨水は排水ではなく浸透です。
昔は、雨水は敷地内で浸透させていました。もちろん生活排水もです。
そもそも茅葺きに樋は付かないし、樋はあっても排水先の側溝は無いので、雨は地面に落ちる。
そのままでは、地面に水が溜まって生活しづらいし、土に良くないし、お隣に流れてしまうと迷惑をかけてしまう。
だから、雨落ちを作ったり、穴を掘ったり、井戸で汲み上げたり、木を植えて蒸散するなど、その土地に合わせて様々な工夫をして、地面に浸透させていました。
今私の家でも、少しづつ樋を取り管を抜いて、浸透を実践していますが、
雨と生活排水を地面に浸透させる事が、如何に難しいかという事を身をもって学んでいます。
石の上に家を建てる建築よりも、雨を土に還す土木の方が、間違いなく難易度が高い。
現場で、基礎工事の時に雨落ちを作ると言うと、普通は職人さんに、家が建った後でいいでしょと言われます。でも、雨落ちは最初に作った方が良い事が多いんですよね。
例えば、工事中は職人さん達が周囲を歩き回るので、地面を養生をしないと踏み荒らされます。そこに雨水が流れると地面が固まってしまい、現状に戻すのが一仕事です。工事中に雨水を流さない為にも、最初に雨落ちを作りましょう!
また、雨落ちは時間の経過とともに浸透するようになっていきます。なぜかと言ううと、草木や虫たちが雨落ちの中で暮らし始めて、浸透する水の道が繋がったり、草木が吸い上げてくれるからですね。家を作っている間に、その土地に暮らす生物たちに土を作ってもらいましょう!
雨落ちの仕上げは、せっかく育った雨落ちを泥水で詰まらせないように、堤の肩は石や木で保護して、炭・燻炭・有機物でフィルタリングです。
昔のように家も道も雨水を浸透出来るようになれば、大雨で側溝が溢れる事は無くなり、川に泥水が流れる込む事も無くなり、川は本来の役割を果たしてくれる。土が水を蓄えてくれようになれば、局地的な大雨が減り、川の護岸工事や山の擁壁工事が減り、生態系が豊かになって生物多様性が進んだら、良い循環が始まるでしょうね。
というわけで、いよいよ、建前です!