はじめに
本当の自然素材とは、木や土や草などのように、呼吸する素材。
偽物の自然素材とは、表面だけ自然の素材が樹脂で貼ってある、呼吸しない素材。
2013年頃、身の回りには、偽物の自然素材ばかりであることに気づきました。
本当の自然素材で家を作るには、下地まで自然素材である土壁が必要だと考えるようになりました。
1.呼吸する素材こそが自然素材
自然素材の家・無垢の木の家の設計をしはじめると、おかしいなと思うことが多々ありました。
例えば、プラスターボード下地の左官(漆喰)仕上げ。
漆喰といえば、調湿作用や殺菌作用があり、体によさそうな自然素材です。
私も当初はそう思い、建て主さんに勧めていました。
それは間違ってないのですが、下地の12mmのプラスターボードの上に、仕上げの2mmの漆喰を塗って、「調湿性があります」と言うのは、ちょっと無理があるなと思うようになりました。
仕上げの2mmの漆喰は、体に良いかもしれません。しかし、下地の12mmのプラスターボードは、人体に影響のある硫化水素を発生する可能性があり処分時は産業廃棄物になるとのことでした。
この黄色のボードがプラスターボードです。下地にビスでプラスターボードを固定します。
ビスとジョイント部分の溝には、白いパテを塗り込み、プラスターボードの上に仕上げの漆喰を塗ります。

プラスターボードは、土に還らない素材であり、自然に戻す方法が分からない建材です。
原材料は廃棄物のリサイクル品なので、入手時はとても安いですが、処分時はまた廃棄物となり処分代が高くなります。
一方、木や土や草は、土に還る素材です。
採取して調整するまでには、天然乾燥材と同じく手間がかかるため入手時は高いですが、解体時には土に還せば無料です。
「自然素材の家」と言うからには、隠れてしまう下地も構造も、自然に戻す方法が分からない建材や、体に害のある建材は使いたくないと思うようになりました。
2.土壁の工程
それ以降、プラスターボード(ラスボードなど)を使わない家づくり探しが始まりました。
いろいろ探しましたが、一般的にほとんどの家は、プラスターボードで作られていることを知りました。
そんな中、下地も構造も自然の素材で作るには、昔ながらの「土壁の家」しかないと思うようになってきました。土壁のことは知ってはいましたし、自分の家だけは土壁で直すと決めていました。
ただ、土壁の家が減り続けていることは実感しており、今の時代に土壁で家を作ってほしい人なんて、いないと思っていました。
竹小舞を編む様子
竹を縦と横に編んでいく土壁。編んでいるのは藁縄。
竹は真竹で、藁縄は稲わら。身の回りにある自然の素材で作る土壁は全て手仕事です。
工場で作って、現場で組み立てるわけにはいきません。

泥を塗る様子
泥は、粘土性の土と砂と藁と菌が眠っている古土を入れて、数か月寝かせ熟成させます。
菌の力を借りて藁の発酵をすすめると、繊維状のセルロースと、糊の働きをするリグニンに分解されます。
セルロースは壁の割れを抑制し、リグニンは壁を強くします。
土は山や田んぼから、砂は川から、もちろん手作業で塗ります。

土の裏側
竹小舞の間から、泥がむにゅっと出ます。
つつきたくなる、可愛さですね。
1日置いて、次は裏側から塗ります。

乾燥中の土壁
土の中の水分を飛ばすため、約2か月間以上乾燥させます。

3.土壁の特徴
竹小舞と土壁の美しさ
竹とわら縄と粘土、土に還る素材から作る「土壁」。
いつも竹小舞と土塗りの時間は、牧歌的で建築現場というより、畑仕事の気分になります。
初めて土壁を見た時、本当に自然の素材だけで壁ができていることが、嘘のようでした。
今までの建て主さん達も「本当に竹と藁と土だけなんですね」と口をそろえておっしゃります。
竹小舞の間を抜ける風と陽は、最高に心地よいです。
竹小舞の姿はほんの数日ですが、土壁の家を作られる際は、ぜひこの空間を堪能してくださいね。

ワークショップで、竹編みをしている様子です。
ワークショップには、建て主さんや建て主さんのご家族やご友人をはじめ、土壁の家づくりに興味のある方や、これから家づくりを始める人など集まって、みんなで家づくりです。

竹小舞を通り抜ける風は、特別に気持ちが良いです。

竹小舞の木漏れ陽も、特別なのです。

もちろん、子供も一緒に作業します。

ワークショップでみんなで土を塗ります。

こんな特別な家づくりは、他にないですよね。
土壁の性能
「土壁」は、耐震の構造であり、蓄熱・調湿・断熱の素材であり、意匠としての壁でもあります。
特に優れている調湿性。
畳1枚分の壁で、20Lの水は余裕で吸水してしまいます。
土壁は常に室内の湿度を安定させようとしているので、夏は外よりジメジメせず、冬は外より潤っています。
土壁の家の建て主さんは、梅雨時期も室内はサラッとして、外より室内の方が洗濯がよく乾くとおっしゃり、除湿器は必要なくなったと言われます。
蓄熱性も優れています。
暑い夏は、夜間に網戸で冷気を取り込むことで、土壁を蓄冷します。翌日朝から窓を閉め切っておけば、午後になっても外気温より室内の温度は低いのです。昔の民家が、夏涼しい理由の一つですね。
寒い冬は、薪ストーブの輻射熱を土壁が蓄熱します。ストーブの熱が冷めても、土壁が家を温めてくれます。まるで、壁にも体温があるかのようなぬくもりです。
ただ、残念ながら、土壁の断熱性と気密性は、優れていません。
昔の家は寒いと言われますが、それは断熱性能がなかったからですね。
もし断熱が必要であれば、土壁の外に付加断熱しましょう。

4.自然に還らない断熱材
当時もう一つ悩んだのが、断熱材です。土壁は断熱性能が高くないので、断熱材のことも同時に考えました。
初めて使った断熱材は、発泡ウレタンフォームでした。
現場で吹き付けているのを見た時、ぞっとしました。
職人さんは、全身カッパのような服を着て手袋を付けて、頭からすっぽりかぶるフェイスガードと、ゴーグルと防塵マスクを着用して、作業をおこないます。
これから人が住む家なのに、まるで毒ガスが充満している部屋に入っていくようでした。
下の写真が、現代工法の工事中の現場です。
構造材の木には防腐剤を塗って、ビニールで覆って、隙間なく発泡ウレタンフォームが吹き付けられます。次の工程では、プラスターボードで構造と下地を隠し、薄っぺらい仕上げ材で綺麗に仕上ていきます。
これでは、時間とともに味わいは深まらず、ただ汚れていくだけに感じてしまいました。

発泡ウレタンフォームの成分は、もちろん石油です。
日本で一般的に使われている断熱材の多くは、石油から作られていることを知りました。
使用後は、産業廃棄物となり、海洋汚染や埋め立て処理など問題を抱えている廃プラスチックとなります。
また、吹き付けると剥がすのが困難で、柱梁から下地に至るまで、家中ほとんどの木材が産業廃棄物となります。集成材・LVL、合板・パーティクルボードなど石油系の接着剤で生産されるものや、ビニール類などなど、土に還らない呼吸のできない建材ばかりで家は作られていました。
現代工法の家で、土に還るものを見つけることはとても困難です。これから数十年後には、建築のゴミの山が生まれることは、容易に想像できました。
呼吸ができない断熱材は、結露などで水に触れてはいけないので、断熱材と家の間は隙間なくビニールとテープで気密をとります。
柱や梁など家の構造は、断熱材と一緒にビニールに包まれて呼吸ができなくなり、長持ちしません。
そのビニールはホッチキスとテープで止めます。何もなければよいですが、もし地震で家が揺れると、変形しないビニールは破れてしまいます。
破れた隙間から水が入ってしまうと、今度はビニールが邪魔して簡単には乾きません。
長期的に湿った状態となってしまうと、呼吸しない断熱材も、呼吸できない柱梁も、劣化してしまいます。
日本の現代工法の家は、寿命が短いと言われます。理由は二つあるとおもいます。
1.全て覆ってしまっているので、故障した部分は壊さないと修理できません。
2.そもそも全て覆ってしまっているので、故障しているかわかりません。
50年もたたずに解体している家は、小さな故障を修理せず放置したために、致命的な故障となり、解体に至った家が多いと思いますし、これから災害でますます増えると思います。
有害なものに包まれて、ゴミを将来に残して、家の寿命を縮めてまで、高気密高断熱の家に暮らしたい人ばかりでしょうか。
5.自然に還る断熱材
それ以降、断熱材も土に還る素材のものを探した結果、フォレストボードを使うことにしました。
フォレストボードの原材料は、バージンパルプ【49%】+杉の樹皮【49%】
ボード形成に必要な接着剤は、コーンスターチ(トウモロコシのでんぷん)【2%】
水の中に入れてみたら、木のように浮き上がります。
水も少し吸いますが、置いておくと乾燥します。
試しに火を付けてみたら、木を燃やした時のような煙と匂いが出ました。
自然の素材だけで作られた断熱材は、性能は高くありませんが、土に還る断熱材なのですね。
フォレストボード

さいごに
竹とわら縄と粘土、本当に自然の素材だけで壁が成立したこと。
土壁の家を求めている建て主さんは少ないが、いらっしゃったこと。
初めて土壁の家を作らせていただいた時に、土壁でやっていく自信を持てたことが嬉しかったです。
これで、プラスターボードを使わずに、家づくりができます。
全て土に還る素材で、家づくりができます。
これからは、壁は全て土壁にすると決めました。

やるべきことは、断熱材や設備に頼る前に、快適な家づくりを考えること。
土壁は、断熱性や気密性は少ないが、蓄熱性や調湿性が高い、呼吸する素材。
熱容量が大きく呼吸する素材である木や土や畳や障子を使いこなすことが、私の仕事。
私は、今も無断熱の古民家で暮らしています。夏ちょっと暑くて、冬ちょっと寒い。
エアコンはないが、自然を利用した暮らし方の工夫だって、たくさんあります。
もちろん、断熱材を入れたい方には、床の下や、屋根の上や、土壁の外に、フォレストボードを入れますので、ご安心ください。
次回は、石場建て。
家の素材のことから、家の構造のことを考え始めたら、ついに石場建てを知ってしまいました。
土壁のお話はいかがでしたでしょうか。ご相談・ご質問などあれば、ご連絡ください。
ご覧いただき、ありがとうございます。
ご興味があれば、ぜひ最初から読んでみてください。