【ご案内】3月31日 三和土ワークショップ

02 無垢の木で家を作りたい【木組み】

 

はじめに

無垢の木で作る家とは、木組みの家。
木組みの家とは、天然乾燥材を手刻みで作る家です。

2012年頃、ある事がきっかけで木組みの家の存在を知りました。

 

天然乾燥と手刻み

自然素材の家を設計していた時に、地元の大工さんが建てている家にお邪魔する機会がありました。
お施主さんの裏山の木を伐採して、天然乾燥させた木を、手刻みで作る家でした。

現場では、大工さんがノミやカンナで、トントンカンカン仕事をしている。
今でも覚えていますが、家に入った時の木の香りが、衝撃的に気持ち良かった。

これが「無垢の木の香り」だと、すぐに理解できた。
誰でもすぐ理解できるぐらい空気が違います。

話を聞いてみると、その違いは、木の乾燥方法。
機械乾燥か、天然乾燥か。

レンジでチンのようにすぐ乾かす機械乾燥は、木の艶や香りがなく、木は死んでいる。
自然の陽や風でじっくり乾かす天然乾燥は、木の艶や香りがあり、木は生きている。

もちろん、死んだ木よりも、生きている木は、空気に触れて呼吸し、永く持つ。

この生きている木を加工するには、職人が一本ごとに木の癖を見て適材適所に木配りし、手仕事で行う「手刻み」でしか加工できない。

 

天然乾燥とは


柱梁を天然乾燥している様子。
一年以上、屋根のある屋外に積んで天然乾燥させる。樹種やサイズによっては二年以上。

 

板材を天然乾燥している様子。
板材は、天候・厚みによるが、半月以上は天然乾燥させる。

 

最近はこんな風景は、見かけなくなったと思います。
つまり、天然乾燥の木が使われることは、減ってきたからです。

 

 

天然乾燥と機械乾燥

なぜ、天然乾燥が減ったかというと、木が生きているがゆえに、反ったり割れたりするからです。

反ったり割れたりすると、クレームに繋がるかもしれないので、作り手は使いたくなくなる。無垢の木を使いこなす為には、職人の技術が必要だが、技術のある職人が減っている。

逆にプレカットの機械は、反ったり割れたりしない死んだ木の方が、加工に適している。強制的に乾燥させる高温乾燥は短時間で製品化でき、長期間天然乾燥させておく広いスペースもいらない。

プレカットと高温乾燥の機械化による大量生産は進み、合板・集成材や高温乾燥が多く使われるようになり、高温乾燥の価格は下がり、天然乾燥は使われなくなっていった。

天然乾燥は、時間と手間がかかります。

例えば、山で生きていた木は、一本一本水分量は違います。桟積みする作業は手作業で、天然乾燥中の気候によっても、乾燥場所によっても、乾燥具合はみんなバラバラ。だから機械乾燥のように、大量生産は無理なのです。

しかし天然乾燥は、化石燃料や電気などエネルギーに頼らず、自然の力で乾燥させる。
木のペースで乾燥しているから、木は死なずにその後も、割れたり狂ったりする。

山では何十年とかけて自然に成長し、自然の中で乾燥して、家の材料として永く使い、最後は土に還る。こんな自然の循環の一つである天然乾燥の良さを、たくさんの人に知って頂きたい。

 

 

手刻みとは

一般的に「手刻み」と呼ばれる工程は、構造材を加工する作業です。

手刻みも大きく分けると【 ①木配り → ②墨付け → ③刻み 】の3つの工程があります。

 

① 木配り

何本もある材料の中から、一本一本違う木の癖や表情を見て、どこにどの向きで使用するか適材適所に決めていく作業。

 

② 墨付け

加工する線をひく作業。

 

③ 刻み

墨に合わせて、手仕事で加工する作業。

 

仕口とは

「木組み」とは、ボルトや金物を使用せず、木と木を組んで家を建てる事。
木と木を組む接合部の事を、仕口と呼ぶ。
仕口は、法隆寺が建てられた時代から受け継がれてきた伝統技術。

実際の仕口の例

 

 

 

※ より詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

 

生きている木は、季節によって伸び縮みを繰り返す。
ボルトで柱梁を締めても、乾燥すると木が縮んで、ボルトは緩んでしまう。

仕口は、ホゾをホゾ穴に差して、楔で締める。
木同士は同じように伸び縮みするので問題はない。

 

地震時は、木より硬い金物やボルトは木を壊してしまうかもしれない。
木はめり込んでもまた復元するが、金物やボルトは変形したら、元に戻らない。

伝統的な仕口は、木同士なのでお互いにめり込み合って、復元する。

天然乾燥材と手刻みのおかげで、日本の伝統建築が永く生き続けてきた事を知った。

 

木組みの建前

何百とある仕口を手刻みで加工し、組み上げる。

山で伐採し運び出したものを、天然乾燥させて製材し、大工が手刻みして組み上げる。

初めて見た時は、一連の流れに立ち会ったにも関わらず、あの山の木から職人の手仕事で、この家が建った事が嘘のように思えたほど、衝撃だった。

 

 

手刻みとプレカット

例えば、ボルトを使わない木組みの手刻みは、手刻みの人工が約3人工/坪。33坪で100人工。
1棟手刻みするのに、1人の大工さんで約4か月間。

ボルトを使用する金物工法のプレカットであれば、8坪/時間。33坪で約4時間。
1棟加工するのに、機械で約半日。

 


左がボルトを使わない木組みの手刻み、右がボルトを使用する金物工法のプレカット。
同じ家を建てるとしても、手刻みとプレカットでは、構造は変わってくる。

左の木組みの手刻みは、右が金物工法のプレカットに比べて、材木の量は増える。
天然乾燥の手刻みは、高温乾燥のプレカットに比べて、材料費も人工も高くなる。

例えば、機械乾燥+プレカットで作る30坪の家の総額が 3000万円だったとします。
3000万円のうち、材木とプレカット代が300万円。もし、機械乾燥+プレカットから、天然乾燥材+手刻みに変更すると、2倍になったとして600万円。
つまり、1割予算を増やすか、1割小さな家を建てるかです。

 

木の香りがして長く持つ天然乾燥と手刻みには、十分その価値があると確信した。

 

さいごに

 

これが、手刻みの木組みの家です。
中に入ると、おそらく展示場や見学会で見てこられた機械乾燥の木の家とは、香りが全く違います。

手刻みが出来る職人さん出会い、天然乾燥の木を準備できて、やっと木の香りのする「木組みの家」が作れるようになった。

大工さんが刻んで手鉋をかけてくれた柱梁は、隠さないよう現しにする。
何十年後には、古民家のような味わいのある柱梁になるのが楽しみだ。

フローリングや壁天井の板も、天然乾燥の無垢の板。
傷はつきやすいですが、木の香りがする生きた木です。

 

当時は、こんな素晴らしい大工さんの仕事を知ってもらう、または伝統を残していく為にも「天然乾燥」と「手刻み」で作る。

その思いが強くなり、プレカットは辞めて、全て手刻みで作ると決めました。

 

次回は土壁。

木を見せる為には、真壁で作らなければいけない。
天然乾燥の木組みの真壁には、自然素材の土壁がふさわしい。

 


 

ご興味があれば、最初からご覧ください。