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06 自然を壊さず家を作りたい【土中環境】

はじめに

石場建ての家を建てられるようになり、やっと昔の人たちの背中が見えた気になっていた。
しかし、築100年を超える民家の前に立つと、同じ土俵に立っている気が全くしなかった。

何が足りないのか分からず、モヤモヤと過ごしていたら、その時は突然やってきた。
ある1冊の本が教えてくれた。
私に足りなかったのは、「建築の石場建て」ではなく「土木の石場建て」だった。

 

「土中環境」

何がきっかけで買ったか忘れましたが、読み始めて数分で「これだ!」と感じた事は覚えている。

https://amzn.asia/d/eijRfAI

髙田宏臣さんの著書「土中環境 ー忘れられた共生のまなざし、よみがえる古の技ー」

私は、人間には自然環境をプラスにする事は、出来ないと決めつけていました。
つまり、人間は自然を壊さないと、生きていけない。
だから、せめてマイナスを減らそうと思い、暮らしていたのですが・・・、

なんと「土中環境」には、人間が自然環境をプラスにする方法が書かれていたのです。
本を一気に読み終え、すぐ「髙田宏臣」を検索して、出てきた動画の冒頭の髙田さんの言葉。


本来は、人が暮らすことで、土地を育ててきた。
次世代の為に土地を育てる事は喜びであり、次世代の為に役に立つことは喜びである。
でも今は、土を育てる方法を忘れてしまい、人間の行為が自然界にマイナスとなっていると感じている方がたくさんいらっしゃる。
でも、まだ大丈夫。


嬉しくて涙が出た、2020年の夏。

 

 

1.壊れていく自然

街で暮らしていた時は、既に緑が無くなっていたからか、新しい建物が建つと植栽が増えたりして、自然が壊れている感覚が鈍くなっていた。
しかし緑が残っている地方で暮らすと、毎日どこかで木が切られ、見慣れた土や草木はアスファルトやコンクリートに変わっていき、山や休耕地は人の手に負えず荒れていき、人間が日々自然を壊している事を敏感に感じています。

私たちは、便利に暮らす為・経済を回して生きていく為に、山や田んぼなどの里地を壊して、道を作り建物を作り、太陽光パネルや風車やダムを作り、その残土で谷を埋める。また、自然を原料として、大量のモノを生産し、大量のゴミを生み出し、燃やしてリサイクルして谷に埋める。
自然を破壊し搾取する事で、生物の多様性は失われ、生態系が弱くなり、自然災害を引き起こす。

さらに私たちは、自分たちが引き起こした自然災害から暮らしを守るために、側溝や堤防を作り、擁壁や砂防ダムを作り、自然災害に対してコンクリートで立ち向かう。
コンクリートでは自然に打ち勝つ事は出来ず、生物多様性はより失われ、生態系は壊され、さらなる自然災害を引き起こす。

残念ながら、現在は絵にかいたような負の循環の中にいると感じます。 

この負の循環に少しでも抗えないか?
自然の為に、私に出来る事は無いか?

その問いに「土中環境」が答えをくれました

  

間違って伝えるわけにはいきませんので、私から土中環境の説明はしませんが、
皆さん、どうか「土中環境」を読んでみて下さい。
読書が苦手な方は、髙田さんが代表を務める「地球守」の自然読本という小冊子がお勧めです。
私もストックがあるので、欲しい方にはお分けします。
そして、ぜひ髙田さんのワークショップに参加して、髙田さんのお話を聞いてみて下さい。

 

 

2.呼吸する土と呼吸しない土

ここでは私が「土中環境」を読んで考えた事の一部を簡単にお話しします。

 

今起きている自然災害(洪水・土砂・倒木)や、生物多様性の問題は、人間の自然破壊により自然環境が不健康(自然の一部が正常に機能していない)である事が問題だと思います。

例えば、洪水や土砂などの自然災害は、降った雨が地面にしみこみ蓄えるという機能が働いていないので、発生してしまいます。

健康な山は、フカフカの柔らかい土なので、雨水は深くまでしみこみたくさん蓄えられる。その雨水は、土中で木の根が吸収し、地上に蒸散されることで、水と空気は地上と土中を循環します。
健康な木は、地表の枝葉が空気と太陽を求めて大きくなるように、土中の根は水と空気を求めて深く広がっていきます。つまり、木や山が健康な状態は、水が深くしみこみたくさん蓄える事が出来る土中環境(呼吸する土)です。

健康な山では、大雨が降っても土中深くまでしみこみ、災害が起こる事は少ない。
しみこんだ水は、地下水として養われ、木々たちがゆっくりと蒸散していきます。

 

 

一方、不健康な山は、表面の土が深くまでしみこまず、土中は乾燥して土は硬くなります。水がしみこまない土中環境(呼吸しない土)では、水や空気の層は浅く、木も根を伸ばす事が出来ません。

不健康な山に大雨が降ると、水はしみこまず地表を流れ、泥水となって川に流れ込み、川は増水します。また木々の根が浅いので、地滑りや土砂災害を引き起こす原因となります。

自然災害だけでなく、マツ枯れやナラ枯れ、シカの食害も土中環境の悪化が原因だそうです。

 

 

3.土の呼吸を止める家作り

例えば、水がしみこむ健康な山に、木を伐りコンクリートのベタ基礎の家と砕石を転圧した駐車場を作るとしましょう。

もともと、水がしみこみ水を蓄えていた山は、造成工事で固まり、コンクリートのベタ基礎が地面を圧密し、砕石の駐車場は水たまりとなり、水はしみこまなくなります。
雨が降れば、雨水は周囲の山に排水します。もし側溝に排水したとしても、側溝はすぐに土砂で埋まり、水は溢れて周囲の山に排水したとします。

雨が降って排水された水は、山の地表を流れて泥水となり、もともと雨水がしみこんでいた周辺の柔らかい土を泥詰まりさせ、水のしみこまない硬い土に変えていきます。
また、もともと周辺に立っていた木々は、水が深くまでしみこまなくなると、深い所では呼吸ができなくなり、根はどんどん浅くなっていきます。浅くなると、木は体を支える為に枝を落として体を軽くしたり、地上に根を出して空気を求めたりしますが、耐えられなくなるといずれ倒木します。

 

 

家作りで大事な事は、雨水を排水するのではなく、雨水を敷地内に全てしみこませる事です。

雨水を排水せず、敷地内に浸み込ませる事で、周辺への排水や泥詰まりを防ぎ、周囲の木々を守り、最終的にはその木々に助けられて、敷地内の雨水を滲み込ませる事に繋がります。

 

 

4.土中環境を育む生物たち

自然環境を改善してくのは、ここからが本番です。

敷地や周辺に、健康で様々な階層の木々がいる事で、土中の菌糸や微生物の多様性は豊かになります。そのような場には、日当たりの良い所や悪い所、位置の高い所や低い所が生まれ、温度湿度や風の流れなど、多様な環境が生まれます。その多様な環境に対応して、様々な草花が芽吹き、いろんな虫たちや鳥たちが集まる、環境が生まれます。この環境は、人間にとって心地よいものばかりではありません。

微生物たちは、団粒構造と呼ばれるフカフカの土を作り、そのフカフカの隙間に菌糸が入り込んで、菌糸は木と共生し、土をより豊かにしてくれます。草花や虫たちも、フカフカの土の中で暮らす事で、木と同じように呼吸する土中環境を育んでくれます。
そして、虫や鳥たちが草木の種を運んできてくれ、実生が育つ庭となり、生物の多様性が豊かになる。この循環こそが、強い生態系を育み、健康な自然環境に繋がっていくと考えています。

 

結局私たちが、自然の為に出来る事は、実は生物たちが暮らすきっかけを作る事でした。
土中環境を育み、自然を豊かにしてくれるのは、多様な生き物たちだったのです。

 

 

 

5.土の呼吸を止めない家作り

では、実際の家作りです。
やるべきことは、雨水を全て土に還し、生き物たちと共生する環境を作る事です。

この写真は、石場建ての基礎工事完了時です。

 

 

まずは、土の呼吸を止めないよう、コンクリートは使わず、石を多用して作ります。
基礎の石の下には、杭を打ち栗石で隙間を作り、水や木の根や菌糸の住処とします。
軒先には雨水がしみこむ雨落ちを作り、樋も付けず排水の塩ビ管も埋めていません。
後ろと左の崖は、コンクリート擁壁ではなく、木杭と栗石で段切りして作りました。
地表は、雨で土が流れないよう、落ち葉で覆って養生します。

 

 

土木の素材は、石と木杭と落ち葉と炭。
建築の素材以上に、身近にあるもので、まさに土に還る素材で作ります。
基礎工事だけのエンボディドカーボンなら、コンクリート基礎の2割以下じゃないでしょうか。

基礎工事が終わった頃には、奥の方から草が生えはじめ、ドングリの実生がそこら中で芽吹いていました。呼吸する土づくりさえできれば、木を植えなくても大丈夫。少し時間はかかりますが、自然の都合で実生が芽吹き、生き物たちの暮らしが自然な庭を作ってくれます。

大事なことは、人の都合や理想は持ち込まず、様々な視点で多様な環境を作る事だと考えています。植物や虫たちの行動は、私の想像を超える事ばかりですからね。

 

 

まだ引き渡しが終わっていない現場ですが、既に木々に包まれていく石場建てのいえ。

土の上の石場建ては、家の下や周囲にたくさんの生物たちが暮らしています。
私たちは、生物たちが暮らすきっかけを作るだけで、生物たちが土中や庭を育ててくれる。

石場建ての家は、自然環境を改善する装置なんだよと、教えて頂いた。

 

私は「土中環境」を知るまでは、目に見える地表の自然しか見えていなかった。
大事な事は土中の環境。これからは、土が呼吸できる石場建ての家を作ろう。

そういえば、私は家を長く持たせる為に、大事な事は家が呼吸する事だと考えてきました。
その為に、木や土など呼吸する素材を使い、木組み・土壁・石場建ての家作りをやってきた。

【建築の石場建て】呼吸する家で暮らす人
【土木の石場建て】呼吸する土で暮らす生き物

なんだ、そういう事だったんだ。
「石場建て」やってきて良かった。

 

 

6.私の家

 

7.日本の民家は一本の木

私は、家はコンクリートの上に作るものだと思ってたので、このたび家を土の上に作る事になり、今までの考えを一度リセットして、縛りの無い状態でもう一度自分の家作りを見直してみた。

こちらは、土中環境と出会う少し前に完成した茅葺民家です。

 

 

茅葺き民家は、伝統工法の家の中でも、造りも暮らしも別格で、とても魅力的です。

世界中の伝統的な建築の基本は、木の柱を立て、屋根は草、壁は草か土、床は土。
家の中の囲炉裏やかまどで火を起こし、料理をしたり、暖を取ったり、明かりに使う。
基本的に年中火を使うので、湿気に弱い草屋根を乾かすのにちょうど良い。
茅は刈り貯めて小屋裏に入れておく、次に葺き替える時にさっと出せて都合が良い。
ついでに囲炉裏の煙に燻されて、草屋根と茅の寿命は長くなる。
また草は家畜のえさにもなるので、家畜との相性も良い。

 

 

今は、茅葺き民家に関わりたいと思っています。
自分の家の屋根を、何とか草に出来ないかいつも考えている。
なぜかと言うと、家の中が心地良さの次元が違う。

例えば、下の絵をご覧ください。

 

石場建ての古民家の縁の下は、菌糸や木の根が100年以上土中環境を育んできた。さらに、家の周りの木々の蒸散効果や、敷地内の井戸水をくみ上げる事で、水と空気は地上と土中を循環します。

そしてもう一つ、土中の水と空気を動かす装置が、囲炉裏と茅葺です。

家の中で囲炉裏に火を起こす事で、囲炉裏の下の地面は乾き続け、土中の水を呼び続ける。土中の水と空気は熱せられて、家の中を上昇し草屋根から大気に放出される。

茅葺き民家は、囲炉裏を通して土と家を繋ぎ、一本の木のよう水と空気を循環させる。
人の普段の暮らしが、土を育て周辺の草木や生き物たちを育む。
次の世代に育った土地引き継ぐ喜びこそ、日本の民家が長く住み継がれてきた理由だと思う。

 

 

8.割栗石敷玉石基礎

最後に石据えの方法ですが、こちらは以前記事にまとめたものがあるので、ご興味があればご覧ください。動画も作りましたので、合わせてご覧頂けるとわかりやすいと思います。

 

 

さいごに

自然を壊さず家を作る。
その答えは、土中環境や暮らし方など、建築と建築以外を繋げる事でした。

伝統的な知恵に気づかされ、ますます昔の人たちの背中が見えなくなった気がしましたが、建築と建築以外を繋げていけばよいと考えると、私にもやる事はたくさんある。
100年後に「私の家」を、作れそうな気がしてきた。
あと少しで、昔の人たちと同じ土俵に立てそうです。

 

次に目指すべき場所は、自然を再生する家。
家を作れば作るだけ、自然にプラスになる家作り。

マイナスの省エネから、プラスの生物多様性へ。
From negative energy saving to positive biodiversity.

人間も生物多様性の一つのピースなる。
お手本は、虫たちです。

 


 

ご興味があれば、最初からご覧ください。