はじめに
天然乾燥の木と、手刻みと、土壁の家づくりをするようになって、竹小舞の美しい姿を眺めたり、土壁のしっとりとした空気感を感じるのが、仕事の楽しみの一つになりました。
竹小舞や土壁のワークショップもできるようになり、家づくりの楽しさが広がりました。
土壁の家づくりを始めて、本当に良かったと満足だったのですが、できればとことんこだわりたいと思い、2014年頃から石場建ての家を目指すことになりました。
理由は二つです。一つは筋交い、もう一つはアンカーボルトです。
現代工法と伝統工法の構造の違い
家を作る場合は建築基準法上、① 仕様規定 と ② 性能規定 の二つのルートがあります。
① 仕様規定【現代工法】 ※ 何もいりません
家づくりの仕様が定められており、その仕様を満足すれば構造計算はいらない。
② 性能規定【伝統工法】 ※ 構造計算と適合判定が必要です
定められた仕様を満足しない場合は、個別に構造計算して安全性を確認しなければなりません。
伝統工法の家づくりをしようと思うと、仕様規定では限界があります。
まずは下の写真をご覧ください。違いはわかりますか?
①仕様規定【現代工法】は、こんな家です。
コンクリートの基礎があり、その上に土台を乗せて、アンカーボルトで土台と基礎と緊結します。
土壁の中にも筋かいを入れて金物で固定し、火打ち梁も入れます。必要に応じて合板も貼ります。

②性能規定【伝統工法】こんな家を作りたいのです。
基礎は石で、その上に直接柱を立てる石場建てとし、石と柱は固定しません。
筋かいや合板や火打ち梁、または他の金物類は使用しません。

1.筋かい・合板を使いたくない理由
土壁に、筋かいや合板を使いたくないのです。
現代工法の耐震要素は「筋かいや構造用合板または金物」です。
伝統工法の耐震要素は「土壁や木組み(差鴨居)」です。
「筋かいや構造用合板」は固く、地震に対して変形せず耐えますが、耐えきれなくなると壊れます。
「土壁や木組み」は柔らかく、地震に対して変形しながら粘りますが、耐えきれなくなると壊れます。
簡単に言うと、地震に対して特性が逆なんですね。
つまり「筋かいや構造用合板」など変形しない耐震要素を併用すると、「土壁や木組み」など変形する耐震要素の良さをつぶしてしまうのですね。
たしかに古民家には、筋かいはありません。
昔の人たちは、単純な筋かいは使わず、手間をかけて、貫を差して竹を編んで泥を塗ったのですね。
下の写真のように、伝統工法の家には斜めの材料(筋かい・火打ち)やボード類は使用しません。

じゃあ、土壁だけで作ればいいじゃん!
残念ながら、仕様規定【壁量計算】では、平屋は壁を増やせば作れますが、2階建ては1階部分を少々無理して耐力壁として筋かいや合板を併用しないと、作ることが難しいと感じています。また【許容応力度計算】をまともにすると、壁量計算の約 1.8 倍ほど耐力壁が必要になると感じています。
理由は、【令第46条(構造耐力上必要な軸組等)】です。
現代工法の考え方では、変形性の高い「土壁や木組み」の強さを生かすことができないので、仕様を満足することが難しく「筋かいや構造用合板」に頼らなければいけなくなるのです。
土壁と筋かいを併用すると、土壁の中に筋交いが埋め込まれ、土壁の強さを生かすことができません。また、筋かいの端部には筋かい金物を付けて、さらに引き抜き金物も必要になるかもしれません。
という理由で、伝統工法の土壁の家に筋かいや構造合板を使いたくないんですね。
どうしても使いたい時は、合板と筋かいで構造、土壁は意匠と役割を分担した方が良いと思います。
2.アンカーボルトを使いたくない理由
基礎と土台をアンカーボルトで緊結したくありません。
理由は筋かいと同じで、「土壁や木組み」は柔らかく、地震に対して変形しながら粘る特性があるので、土台より上の構造は変形しながら地震に耐えます。
しかし、基礎と土台をアンカーボルトで緊結すると、土台から下は硬くなり変形しなくなります。
上から降りてきた地震のエネルギーは、基礎と土台とアンカーボルトに集中することになると考えます。
つまり筋かいや基礎と土台が、悪いわけではありません。
固めるなら全て固め、柔らかくするなら全て柔らかくするべきです。
大事なことは、建物の構造特性が連続していることだと考えています。
手刻み・土壁で、変形性能が高い建物を作るなら、基礎も固定しない石場建てで作りたいと考えるようになりました。

じゃあ、石の上に柱を立てればいいじゃん!
残念ながら、仕様規定では、できないんですね。
理由は、【令第42条(土台及び基礎)】です。
ここには、基礎と土台を緊結しなくてもよいという言葉は、ないのですね。
構造の連続性以外の面でも、石場建てのメリットはあります。
例えば超大型地震が来た時に、現代工法の家は耐えられなくなったら、おそらく力の集中する耐力壁の接合部か、土台と基礎の緊結部分で壊れると思います。
石場建ての家は耐えられなくなったら、石の上で浮き上がることで、地震力を逃すことができます。
仮に動いたとしても、石の上に立っていただけなので、後から戻すことができます。
2016年の熊本地震直後に、現地に行きました。
伝統工法の石場建ては、地震の多い日本で生き残ってきた理由を実感することができました。
こちらは、木の家ネットの記事です。地震で動いてしまった石場建てを、戻した時の記事です。
https://kino-ie.net/feature-column/act-201
3.プリンとようかん
最後に地盤についてです。
地盤には、固有の特性(地盤増幅率)があることをご存じですか。
地盤増幅率は、J-SHISの地震ハザードステーションで確認できます。
https://www.j-shis.bosai.go.jp/

こちらが増幅率のデータです。
とてもざっくり話しますので、頭の中で想像してみてください。
地図の赤くなっている所は、よく揺れる柔らかい地盤です。
緑の濃い所は、あまり揺れない硬い地盤で、黄色はその中間です。
例えば、柔らかい地盤は、お皿の上のプリン(10cm立方)だと想像してください。
硬い地盤は、お皿の上のようかん(10cm立方)だと想像して下さい。
では、机の上に、プリンとようかんがのった二つのお皿を並べて、机を揺らしてみてください。
① プリン(柔らかい地盤)は、グワングワンと大きくゆっくり揺れます。
② ようかん(硬い地盤)は、プルプルと小さくはやく揺れます。
次に、お皿は触らず、お皿の上のプリンとようかんの上に、同じ大きさのプリン(10cm立方)をそれぞれそっとのせてください。
では同じように、お皿が二つ並んだ状態で、上のプリンが落ちない程度に、机を揺らしてみてください。
プリンの上のプリンは、下のプリンと共振して、グワングワンともっと大きく揺れます。
ようかんの上のプリンは、下のようかんとは共振せず、あまり揺れません。
次に、お皿は触らず、お皿の上のプリンとようかんもそのまま、上にのっているプリン(10cm立方)をそれぞれ、同じ大きさのようかん(10cm立方)に、そっと乗せ換えてください。
ではまた、お皿が二つ並んだ状態で、ようかんが落ちない程度に、机を揺らしてみてください。
③ プリンの上のようかんは、下のプリンとは共振せず、あまり揺れません。
④ ようかんの上のようかんは、下のようかんと共振して、もっとプルプル揺れます。
では、次のように頭を切り替えてください。
上に乗せたプリンは、柔らかい伝統工法。
上に乗せたようかんは、硬い現代工法。
そうすると下の図のようになります。
| 下の段 | 上の段 | ||
| ① | プリン (柔らかい地盤) | プリン (伝統工法) | 共振 |
| ② | ようかん (硬い地盤) | プリン (伝統工法) | |
| ③ | プリン (柔らかい地盤) | ようかん (現代工法) | |
| ④ | ようかん (硬い地盤) | ようかん (現代工法) | 共振 |
① 柔らかい伝統工法は、柔らかい地盤に建てると、共振してよく揺れます。
② 逆に、硬い地盤に建てれば、周期が異なるので、あまり揺れません。
伝統工法と現代工法、どちらが地震に強いという話ではありません。
伝統工法の家は、硬い地盤と相性が良く、よく揺れる地盤とは相性が良くありません。
大事なことは、地盤の特性に合わせて、建物の構造を設計することだと考えています。
※石場建ての構造計算では、地盤増幅率を考慮して安全性を確認しています。
参考までに、下の〇は名古屋城です。

下の〇は、大阪城です。

どちらも、赤は避けているのですね。
石場建てを作るには限界耐力計算で安全を証明する
筋かいを使わず、基礎と土台を緊結せず、石場建てを作りたい。
石場建てを建てるには、現代工法の仕様規定を満足することができず、建てることができません。しかし、性能規定で個別に構造計算をして安全性を確認すれば、建てることができます。
有難いことに、仕様規定を満足しない伝統工法の耐震性を評価する限界耐力計算という計算法があります。実際に壊す限界実験を行い生まれた計算法です。
こちらは、木の家ネットの資料です。
石場建てのこと全般について、とても分かりやすくまとめられています。
ぜひご覧ください。

さいごに
というわけで、限界耐力計算を学び、石場建ての家を設計できるようになりました。

2010年の自然素材の家から考えが変わってきて、木組みの家になり、土壁の家になり、石場建ての家になりました。
無垢の木を使うためには、手刻みで作る強くてしなやかな、木組みの家。
自然の素材で作るためには、土壁で作る重くて変形性能の高い、土壁の家。
手刻み・土壁で作るためには、石の上に柱を建てる基礎と固定しない、石場建ての家。
仕様規定から解放されることによって、石から上の構造特性を連続させることができるようになりました。そして、性能規定で安全性を確認することで、設計が自由になって楽しくなりました。

これから伝統工法でやるなら、すべて石場建てでやると決めました。
次回は真壁の家づくり。
木組みも土壁も石場建ても、真壁の家づくりをするための手段だということに気付きました。
石場建てのお話はいかがでしたでしょうか。ご相談・ご質問などあれば、ご連絡ください。
ご覧いただき、ありがとうございます。
ご興味があれば、ぜひ最初から読んでみてください。