音楽家の家は、土地探しから始まった「石場建て」の家作りです。
これから家作りをお考えの方に、家作りの流れを紹介しています。
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現場の様子は、Instagram で発信しています!
施主:@derkoeniginthule (English)
水野:@mizunosekkei
現場見学も随時受付中です。
ご興味のある方はご連絡下さい。
はじめに
7回目は「木配り・墨付け・刻み」です。
天然乾燥材を調達し、乾燥中の数か月間に、設計の私がやる事は、こんな感じです。
実施設計 → 見積依頼 → 構造計算 → 確認申請+適合判定 → 工事契約同席
これらの作業が終わり、大工さんの手が空いたら、いよいよ工事開始です。
まずは「手刻み」と呼ばれる、構造材を加工する仕事から始まります。
「手刻み」は、木選び → 墨付け → 刻み という流れで進んでいきます。
手刻みの簡単な説明は、こちらをご覧ください。 ↓ ↓ ↓
棟梁
今回の工事会社及び棟梁は、岐阜県飛騨の大工工務店「木造建築 一軸」の野村棟梁です。
野村さんは、下請け時代を含めると、石場建ての棟梁は、まだ30代なのに9棟目とのこと。
今回は私から建て主さんに紹介し、一緒にお願いして引き受けて頂きました。
今まで野村さんの石場建ては数件見させて頂いてて、見学会などでも何度かお話しさせて頂いており、こんなこと考えて家作りしてるんだろうなとか、あんなのが好きなんだろうなというイメージはありました。ちょうど、今回の建て主さんの家のイメージと似てると思い、待ち時間はちょっとありましたが・・・、ご紹介させて頂き、初めて一緒に仕事をします。
そんな野村さんの刻み小屋が、こちら。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-13.jpg)
なんか、スッキリしててカッコ良いなと思ったら、、、
!
天井クレーンがない!?
無くても何とかなるとのこと、そりゃそうだ。
でも今回は長尺多いけど・・・想像してたら、僕の腰が痛くなってきた(笑
もちろん、大きい材木は、こうなります。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse050-20.jpg)
この時代に、伝統工法の棟梁をやっている人は、こだわりが偏ってて面白い。
現代工法の家作りでは、棟梁という概念は無くなりましたが、手刻みの伝統工法の家には、棟梁という概念がある。
棟梁は、作る時はもちろん作った後も、家の事を任せられる存在。
プレカットと手刻みの一番の違いは、機械か人間か以上に、棟梁がいるかいないか。
棟梁がいるの意味を、この「木配り 墨付け 刻み」の回では、お伝えしたい。
将来ずっとのお付き合いになる以上は、建て主さんにも棟梁にも、お互いに選ぶ権利はある。
お互いに決まって以降は、棟梁は自身の仕事として100年先まで恥ずかしくない仕事をするし、建て主の信頼に応えるよう全てを注ぎ込んでくれる。
建て主も棟梁に身を任せるように信頼する事で、愛情を持って家を守っていく事に繋がり、それは建て主にとっての人生の喜びになると思っている。
職人との信頼関係で家作りをする伝統工法は、契約書や保証期間などの信頼関係で家を買う現代工法とは、真逆なのですね。
現代工法の家作りが「なんだかな」と思う人は、私が職人さんをご紹介いたします。
絵図板と間竿
では、大工さんが刻みを始める時にまずやる事は、絵図板と間竿を作る事。
大工の図面ですね。平面図は、絵図板。高さは、間竿(けんざお)。
こちらが絵図板。
伏せ図の枚数は、建物による。今回は6枚。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-5.jpg)
一般的に三尺(910)間隔に、通りが振られる。
い通り・ろ通り・は通り・に通り・ほ通り・・・。
壱通り・弐通り・参通り・四通り・伍通り・・・。
基準の角の柱は「いの壱」と呼ぶ。
面白いのは、同じ図面でも大工さんによって「いの壱」の位置が違う事。
今まで、10人以上の大工さんと仕事をしてきたが、これはなぜか傾向や法則がない。
プランが決まったら、まずは「いの壱」を聞いてから、図面を書く。
大工さんが適当に決めているんじゃないかと思い、わざと何度か聞いたことがあるが、「いの壱」は変わらなかった。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-6.jpg)
これが間竿。長さは建物による。
毎回メジャーで測っていたらズレちゃうから、基準の棒を使う。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-10.jpg)
設計者と棟梁、お互いに注意する事
私が図面を書いている時期は、大工が実際に仕事に入る数か月以上前になる。
私が図面を書いている頃の大工の頭の中は、他の進行中の家の事でいっぱいなのである。
つまり、図面を書く時に設計者が気を付けなければいけない事は、この頃に大工に聞いた事や、大工が言ったことは、数か月後の手刻みの時には大工は覚えていない事が多い。
そして、設計者も大工が絵図板を書く頃は、次の家の事で頭の中はいっぱいなのである。
大工が手刻みの時には、もう設計者の頭の中には、残っていない事が多い。
つまり、大工に質問されても、私は既に忘れている事が多い。
よって、なぜか結局は上手くいくのである。
木配り
木配りとは、簡単に言うと木に名前を付ける事。
例えば、断面が120mm×240mmで長さが4.0Mの材木は、この現場でも数十本は使う。
これらを何処に使うかを決める作業を木配りという。
木は、山の斜面の具合だったり、山の南か北かだったり、周りの環境など育った場所はそれぞれ違うので、一本一本の性格は違うのです。また、節が有るか無いかなど表情も違う。
それを大工が、一本一本見て適材適所に木を配って、使う場所を決める。
木配りの時点では、大工の頭の中には、家の間取りはもちろん、細かな構造も既に入っている。
家のここに立つと、あの梁のこの面や、あの柱のこの面が、良く見えるとか、この木はこっちに反っているや反っていきそうと思えば、その反りはここの構造に生かそうとか、考えて木を配る。
多分、大工の一番楽しい時間は、木配りで考えている時間じゃないかと思う。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-1-1.jpg)
墨付け
墨付けとは、材木に加工の線を引く事である。
文字通り、墨を付ける。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-15.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-7.jpg)
これは、よく見と思いますが、墨ツボです。左側に墨が入っている。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-11.jpg)
こちらは、墨を付ける為の治具。
野村さんは芯墨は必要な時だけ打つとの事で、仕事の早い治具を出来るだけ使うとのこと。
常に工夫して新しいやり方を取り入れていく大工さんは、仕事が早い。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-12.jpg)
刻み
刻みは、墨に従って加工する事。
ノミやカンナなど手道具を使って加工する。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-17.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-19.jpg)
これだけ見ていても、どうなるかわかりづらいですよね。
具体的に、見ていきましょう。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-16.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-15.jpg)
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A1 こうなります。
金物やボルトで固定するのではなく、木と木を楔や栓で固定します。
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![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-26.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-30.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-31.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-32.jpg)
A2 こうなって
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-11.jpg)
こうなって
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-12.jpg)
こうなります。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-14.jpg)
頂部を拡大するとこうです。
左の材にほぞ穴が開いていて、右の材のほぞが差さって、栓を2つ打って固定します。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-23-1.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-21.jpg)
それぞれ採寸して、それぞれの部材に名前を付ける。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-22.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-20-1.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-8.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse05-19.jpg)
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-32.jpg)
A2 こうなって
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-30.jpg)
こうなって
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse051-6.jpg)
こうなって
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-29.jpg)
こうなって
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-28.jpg)
こうなって
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-27.jpg)
こうなります。
くさびを打って、固定します。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-25.jpg)
このような手仕事の積み重ねで、このような家が組みあがります。
山で自然に育った木を、林業家が伐採して丸太を下し、製材屋が乾燥して材木とし、大工が加工して組み上げる。1000年以上も前から日本で行われてきた、伝統的な家作り。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-33.jpg)
ボルトや金物は一切使わず、石の上に立っているだけ。
もちろん、このまま吊り上がりますし、吊ったどころでは壊れないぐらい組まれています。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse07-15.jpg)
何百とある接合部の墨を一人の棟梁が付け、手で加工する家作りを、手刻みと呼ぶ。
![](https://mizunosekkei.jp/wp-content/uploads/2022/08/musichouse005-34.jpg)
工芸品のような「伝統工法の家作り」を知ってしまうと、現代の家作りが出来なくなる。
しかも古民家のように、現代の家作りより、ずっと長持ちする。
「手刻みの伝統工法の家には棟梁がいる」の意味が、伝わりましたでしょうか?
この手刻みの数か月間の作業をすっ飛ばして、誰か知らない人にプレカットの機械でジャーンと加工してもらい、ボルトでビビビッと締める家作りが現代のプレカット。
プレカットと手刻みでは、大工と建て主・大工と他の職人との関係が全く違うんです。
実際の構造を見てみたいというかたは、現場をご案内しますので、お気軽に連絡ください。
次回は「土の上の石場建て」です。