9月15日(日) 根の上の石場建て見学会

天白石場建て3 大工の製材所

 


 

はじめに

ちょっと前ですが、新しくできた紬建築の製材所に行ってきました。
場所は、三河の山中。小さな木挽小屋が一軒と、原木と乾燥中の粗挽き材が積んであります。

この日は、親方の柴田さんと今年入社した弟子2人の3人で原木の粗挽き作業。

原木を粗挽き後に天然乾燥させ、刻む前に修正挽きして、刻み場に持って行きます。
今回の天白石場建ての木材の約半分は、ここで製材しました。
大工自ら図面と原木を見比べながら、適材適所に配って製材し乾燥させます。

 

 

これらの原木は、森林組合の伐採ででてきた原木で、市場に行く前に山で直接紬建築が森林組合から購入し、山から直送でここまで運んで頂いたとの事。

伐り時は確認したそうですが、森林組合都合の伐採なので、山の事は考えられていないかもしれないし、葉がらし乾燥もされていないとの事。できれば山の事も考えて、今は原木からではなく立木から始めているとの事。

 

 

今回の天白石場建ては、既製品を購入せずにどこまで大工が作れるかが、テーマの一つ。
構造材や板材や家具はもちろん、建具や断熱材もこの原木と大工の手仕事で作れるところまで作ってみます。

  

 

立木から木作り

ここからは、林業も製材も刻みもやった事のない私の感想。

この山積みされた原木の中から、構造材・羽柄材や板材・建具材を、適材適所に取る。足りないものは購入する。
木の癖や見た目など同じものが一つとない原木の中から、どの木のどこを何に取るか?この木はどう取れば歩留まりが良くなるのか?
中には、本来市場に出回らず集成材やチップにされてしまうような材も購入したそうですが、手間もそこそこに手仕事だからこそ使える方法を考える。

想像するだけで考えすぎてしまいそうですし、そんなことは大工のする事ではないと言われるかもしれませんが、刻みだけでなく立木を見て製材まですることで、木を生かすやりがい、木と向き合う楽しさは、何倍にも膨れ上がるのだろうと思います。

 

 

単純に木の質は、製材屋さんが市場で見て買い付けた木の質より平均的には劣ります。
また、考え方にもよりますが、一般的な規格のサイズを製材していては、良さが半減してしまうように感じます。

例えば、梁巾4寸・長さ4Mなど大量に使う一般的な材は、製材屋で購入すれば良いですが、製材屋に置いていないような一般的ではなくメリットのある材こそ、大工が製材しストックする価値がある気がします。

 

 

例えば、梁巾5寸や6寸の材であれば、手間は増えますが、意匠的にも幅が広がり、軸組も強くなり、歩留まりも上がるかもしれない。

梁巾や柱が4.5寸以上で揃えば、柱に溝をついて荒壁+真壁板張りが作りやすくなり、内外真壁を怖がらず気候風土適応住宅がやりやすくなるかもしれない。

立木の状態にも寄りますが、山から6Mや8Mで下ろして製材すれば、材の単価は上がるが、継手が減って手間が減って、軸組は強くなるかもしれない。

最近は手に入りづらく市場価値の低い曲がり材も、山で曲がりを見て伐って使えば、木を生かす事にもつながるし、大工の腕の見せ所でもある。

などなど、立木から木作りが出来ると、設計も施工も自由度は高まります。

 

 

が、、、よく考えたら、以前はこのような一般的ではない材も、大工さんと密接な関係にあった地域の小さな小さな製材屋がやっていた仕事だったんだと思います。

今は、材木の値段が下がってしまい、小さな小さな製材屋は成り立たなくなり廃業ラッシュ末期です。今後も、この傾向が高まると、天然乾燥材をストックして下さる製材屋に残って頂くためには、やはり量にこだわる必要が出てくるかもしれません。そうなると、流通しやすい一般的な材が主力になってくるので、一般的ではない材は手に入らなくなったり、手間がかかり高いものになったりする可能性もあります。

そう考えると、今はわざわざ大工が時間をかけて製材する必要がないかもしれませんが、将来的には大工の強みになる時が来るかもしれません。

 

 

現状で、近くに天然乾燥材をストックしてくれる製材屋がない地域や、なくなるのが目に見えている地域では、大工の製材所がないと手刻みができないかもしれません。
そのくらい、今は天然乾燥材で手刻みで家を作る仕事が減り続けて、天然乾燥材の需要も減り続けています。

幸い私の近くには天然乾燥材をストックしてくださる頼もしい製材屋がいてくれますが、将来にわたり続けていただくためにも、刻みたい職人と手刻みの家に住みたい建主を繋げて、とにかく製材屋から材木をたくさん買うことが、私たち作り手のやるべき仕事です。

 

 

大工が製材

紬建築の柴田さんになぜ製材をするのかと聞いてみると、一つは立木の状態から始める事で、誰かの都合に合わせることなく、最後まで自分たちの都合で家作りが出来る「自由」が魅力との事。

設計側からしても、原木ではなく立木から提案できるという事は、お持ちの山の木で家作りしたりとか、裏山の木で家作りしたりなど、建主に家作りの楽しさを伝える幅がぐんと広がるので、大変心強い。

 

 

二つ目は、現在8人体制の紬建築ですが、こだわりを持った伝統工法の仕事は、仕様もなく工期も長くなり、軌道にのるまでは、仕事の継続と経営の安定の両立は楽ではないと思います。必要な時だけ応援に頼り弟子を取らなくてよいかと言うと、それでは次の世代が育たない。

経営は何より大切で、その為に考えられることはいくつかあると思います。
例えば、こだわりを捨てて現代工法やプレカットなど工期が短く利益が作りやすい新築やリフォームの仕事を取り入れるのも一つですし、大工の延長で製材など業務の幅を広げる事もその一つです。どうせやるなら、大工の成長にもつながる可能性のある製材をやってみているとの事。

 

 

たしかに、刻みから製材までやることで、段取りにも余裕ができるし、大工の仕事の価値を上げて、建主さんにも満足して頂けることに繋がる。何より、次世代を育てる姿勢は素晴らしい。

私の仕事の一つは、自然素材を扱う職人たちの舞台を準備する事。同じような価値観の職人たちと思いを共有して仕事をしていきたいし、そういう仲間となる職人を1人でも多く増やしていきたい。

 

 

こだわりを持った伝統工法の仕事は、職人も設計もやりがいは大きいですが、引き換えに色々しっかりしんどいです。一度楽な方法を覚えたり、少し時間が空いてしまうと、意欲が不足してもう戻ってこれなくなるんじゃないかと思う時もあります。

次から次に障害となってくる建築基準法、廃業していく素材の生産業者、仕事探しから打ち合わせなど施主様とのやり取りなど、毎回簡単には進みません。そのしんどさは、減少していく職人や設計であったり、少なくなっている伝統工法の現場をみれば、一目瞭然です。

私もいつも気を付けていることですが、口にするからには、自らやり続けることが大切。
最近もしんどいことが続き、少々疲れぎみですが、ポジティブにやるしかないですね。

 

 

木と山のこと

さて、写真は粗挽きした材木を桟積みしている所です。
構造材を取ると一緒に板材も数枚でてきます。

天白石場建てでは、この大量に出てくる板材を、床や壁や天井の板材だけでなく、断熱材としても活用する事で、より山の木を生かし、極力手間をかけずに大工の仕事となるよう工夫中です。建具もアルミサッシは使わず、内外とも木で作ります。

数十年前とは違い、山の木は使われてこなかった分、大きくなっています。設計の立場から、現代の山の木に合った木の活かし方を探していくことも必要ですね。

 

 

今は、裏山や近くの木で家を作ろうと思うと、購入する場合と山の木を使う場合と、どちらが高い? または、どれだけ高い? という話をしているかもしれません。

今の日本の山は、昔植林した木が放置されて、山際には擁壁や側溝や道が作られ、本来の山の保水力や浸透力が弱まり、大雨の時に災害に繋がる可能性が増えてきました。今は災害が起きたら、また人が力で押さえつけていますが、いつまでも人が自然を押さえ続ける事はできないかもしれません。

これからは、災害が起こる前に山の環境を改善して、自然に委ねていく事も求められると思います。もし家を作る為に裏山の木を伐り、同時に山の環境の改善ができれば、山も育ち災害を未然に防ぐことにも繋がります。そう考えると、多少費用をかけてでも、裏山や近くの山の木で家を作る方は、今後増えてくるかもしれません。

「 家作りと山(里地里山)の再生 を繋げる」

口だけではなく、結果を示さねばなりません。

 

 

少し前までは、家を作る為に自然を壊す事はしょうがないと思っていました。

「昔は、山を育てる為に伐った木で、家を作っていた。今のように家を作る為に、山の木を伐っていなかった。」というおじいさんの話をどこかで聞いて、自然を壊さない家作りはやる気になればできると本気で考えるようになりました。

家を一棟建てるとしても、100本もあれば家は建つし、山には大量の木が放置されています。
今後は家作りを通して、建築でも土木でも、しっかり山に関わっていこうと思っています。

 

 

最後に

伝統工法の家を構成する主な素材は、身近な自然の素材です。

山で間伐や道づくりのために伐採した木を、柱梁や家具や建具や木杭などに利用できます。
田んぼでは米を育て、副産物の藁は縄や左官の素材や畳に使い、粘土は土壁に利用できます。
竹林や茅場を維持する事で、竹小舞や茅葺き屋根に使ったり、暮らしの道具にも利用します。

このような素材を生産する場所は、里地里山と言われます。本来の里地里山とは、人間と生き物が共に暮らす場所です。

人間が土地を傷めることなく正しく土地と関わることで、多様な自然環境が維持され、生物の多様性に繋がります。つまり、強い生態系を育むことで、土地を豊かにしてきたのです。

ということは、建築の素材を生産することが、里地里山の再生に繋がる。
家を作る時に自然を壊すかもしれませんが、壊した以上の自然を素材の生産時に再生することができるのです。

家作りという人間の暮らしが、虫や生き物たちと同じように暮らしの中で自然を育み、次の世代の役に立つことができる。これ以上の喜びがあるでしょうか。

「伝統工法の家」は、家を住み継ぐだけでなく、その地域も住み継いでいく事に繋がる。
地域を住み継ぐ事が、里地里山を守る事となり、自然の再生に繋がると考えています。